'24夏 HSプロスペクトへの雑感

MLB High-School All American Game, PG All-American Classicという2つのオールスターイベントが終了しました。HSカテゴリはそこまで熱心にフォローできていないのですが,来年もナショナルズが再びロタリーの恩恵に預かれそうなことから今年は例年よりも力を入れて情報収集をしてきましたので,この2大イベントを通して一度ざっくりと振り返ることにしました。

不調だった?プレミアムタレント

イベント全体で最も注目度が高かったのはEthan Holliday. 数年前から世代を代表するタレントで,高校生ではナンバーワン,全体1位最有力候補の1人です。ボルチモアでブレーク中の兄とそっくりなスイングで非常に高度なバッティングスキルを備えています。

スタンスは2年前のU15時代とあまり変わりませんが,体格が一回り大きくなって打席での存在感がグッと強まった印象です。6'4"/195lbsのフィジカルによりパワーツールは兄以上とも評されますが,その代わり守備は3Bが基本路線。当該イベントでは目立った活躍はなく,HRダービーでも本来の実力は発揮できていませんでした。

U18キャンプで木製バットの特大弾を記録したXavier Neyensも注目選手の1人に挙げられてましたが,期待ほどのパフォーマンスは見られず(BBが多かったせいもある)。HRダービーでは木製で1本しか打てませんでした。

Kruz Schoolcraftは今春のトップライザーで6'9"のツーウェイプレイヤーとしてプロジェクションに期待が寄せられている選手。特に投手としてのスタッツが圧倒的であり,当イベントでも長い左腕から投じられる安定した95マイル強のFBを軸に素晴らしい投球を見せました。https://youtu.be/NKIqhln5lkw?t=2457

ただ,個人的に期待していたバッティングではタイミングの取り方にかなり苦しんでいた様子で,スケールも縮こまったような印象を受けました。バットに当たれば70グレードと評されるパワーがあり,ジャイアンツのエルドリッジやホワイトソックスのキャグリオーンの同時期と比べると投手として完成度が高い一方,打者としての洗練度が物足りないように思います。より長期のスパンで見るならやはり打者としてのディベロップメントに期待したいところ。



U18アメリカ大陸チャンピオンズ

大会MVPだったKayson Cunninghamはトップ投手相手でも彼らしい低い弾道のハードヒットを複数マークしました。5'9"でパワーは平均以下と見込まれていますが,その分小さな身体を使いこなす術を知っている選手です。

スピードに優れているEli Willitsは代表で不動の1番CFを務めており,当該イベントでも足を生かしたプレーが目立ちました。リクラシファイ組ながら実戦的な打撃ができており,110mphは飛ばせなくても全方向へ打球を運ぶアプローチが好みの選手です。

Gavin Fien, Brayden Jaksa, Trent Grindlingerはパワーオーバーヒット型の荒削りな選手たちですが,パナマでの調子をそのままにソリッドなヒットを飛ばしていました。クラス最高レベルのパワーバットであるQuentin Youngは元々非常にムラがある選手で,代表で苦戦していましたが当イベントではインパクトはなくともまずまずのパフォーマンスだったように思います。

投手

Seth Hernandezは最近100mphに到達したVeloの向上もさることながら,SLの変化量にも驚かされました。まだまだ投手として未完成ながら,この2球種だけでも打者を圧倒できるスタッフは高校生No.1投手の名に恥じないものでした。登板後に見せたライトからのレーザービームも見事。


同じ高校生トップ投手で比較的安定していたのがLandon Harmon. 立ち上がりに連打を喰らいましたが97マイル前後という球速の割にまとまったコントロールで,スリークォーターアングルからのシャープなSLも効果的でした。

例年もそうですが,全体的にコマンド難のハイリスクタレントか,アップサイドの小さいハイフロア(ミドルフロア?)的なタレントかのどちらかで,打者と比べると注目に値する選手は多くありません。少ないながら,印象に残った選手を以下に数人ピックアップします。

Miguel Simeについては100mph近いFBを投げることは知っていて,何となく地雷型っぽいプロフィルだな~くらいの印象しかありませんでしたが,まるで印象を覆されました。コントロールのばらけは少なく,99mph+を連発。FBでの空振りも多く,ゾーン低めでもいくつかとれていました。フィジカルは既に成熟しており,高校生だと知らなければカレッジリリーバーだと思っていたでしょう。ショートイニング限定の起用法になると思われるのでドラフトでの評価は高まりにくいでしょうが,ここで見せたようなパフォーマンスを継続できれば面白いことになりそうです。

Grayson BolesはHSオールアメリカンで先発していて初めて名前を知りました。90マイルちょっとのFBですが幅広いフレームと落ち着いたデリバリーによりコマンドは安定しています。2FBやセカンダリーを使いこなせており,出力の伸び少なさそうな点が懸念ですが,それがクリアされればMLBでもスターターとして期待できる選手だと思いました。

その他注目タレント

Billy Carlson, Sean Gamble, Brady Ebel, Dax Kilby, Lucas Franco, Coy Jamesは皆1巡指名が濃厚なMIF。Jamesを除いてほとんどがヒットオーバーパワー型で多くても15HRレベルのパワー。イベントでもソリッドな単打を見せました。Jaden Fauskeも捕手ですが打撃のプロフィルは似ています。
Sean Gambleは本職のSSでも上手い守備を見せてくれますが,今回はCFで長いルートのキャッチを披露しました。

Brady Ebelは1つ若いためパワーで劣るものの,スイングパスの美しさには目を瞠るものがあり,Hollidayに匹敵する存在になりうると思っています。


両HRダービーでチャンピオンに輝いたのがJosiah Hartshorn。左投げ両打ちですが左打ちのみでチャレンジし,多くのHRを放ちました。高校生にありがちな振り回すだけのスイングではなく,ショートな軌道で比較的エフォートレスな動きでコンスタントにハードヒットを生み出します。実戦でのアプローチの未熟さや大きくない体によりパワープロジェクションが低く留まりそうなことからBAでの評価は高校生34位とあまり高くはありませんが,注目すべきタレントの1人に挙げられるべきでしょう。


他にダービーで気になった選手がOmar Serna. 6'2"/225のずんぐりとした体型の捕手で,PGの方では1stラウンドでトップのHRを記録しました。既に体格が出来上がっているためアップサイドが限られますが,ゲームパワーの成熟度はクラスでもトップレベル。70グレードのアームを持ち守備の評価も高く,プロ入りしても堅実なデプス要因として貴重なプロスペクトになり得るでしょうが,個人的にはカレッジで即戦力としての活躍を期待しています。


一般的な高校生捕手の守備レベルはアームの強さを見せつけるのに特化した選手ばかりで他のツールはお世辞にも高いとは言えず,当イベントでもそれは同じで,暴投&パスボールの嵐でした。その中でプロレベルのフレーミング,ブロッキングを見せレベルの違う雰囲気を醸し出していたのがQuinn Schambow. このイベントで初めて名前を知った選手です。

試合後半,赤いユニフォームのオール・アメリカンでマスクを被っているのがSchambowです。↓でSimeと組んでいるのも彼。Willitsを1塁で刺したシーンもあります。Popタイムは1.8s未満で勿論高校生でもトップレベルの肩。


Mario Maganaは前評判はそれほど高くないいくつもいる選手の内の1人ですが,フアン・ソトを意識したようなスタンスが目に止まりました。

上半身のルーズなスイングが下半身と上手く連動させられていませんが,ハードヒットをいくつか飛ばしており,もしかしたら…と思わせられます。


Class of 2025

今年のHSプロスペクトはかなり不作だったようですが,来年は豊作とは言わないまでも標準くらいの充実度のようです。肝心の野手は,Hollidayが一つ抜けた形で後は全体8位前後~30位前後と予想される選手が多く集まっている印象。指名権が多いクラブには嬉しい状況でしょう。ウルトラハイリスクだが魅力的なプロジェクションを秘めるタイプ,よりかはそれなりに計算のできるタイプが多いように思います。来春以降のスタッツで序列の入れ替わりは激しくなるでしょうが,一方でHSバット全体としての絶対的な評価は上がりにくそうだとも思います。投手に関しては,Hernandez, Schoolcraftは1巡がほぼ確実視されていますがそれ以降はまだまだ横一線で春の仕上がりで野手以上に変動しうるという毎年の展開になると思われます。


おまけ:アンダークラス・オールスター

PGイベントの一番始めに開催されたのがアンダークラス・オールスター。26年対象の選手がメインに,27年対象選手も一部参加しているイベントです。2世選手や兄弟がMLB選手orプロスペクトという属性の選手が多かったのが印象的です。

まだ16歳前後の選手なので当然身体的に未熟な選手が多く,実戦を見てもなかなか将来像を予想しにくいですが,素人目に見ても既に一際目立っている選手が何人か見られます。

Alex Harringtonはブロンドの長髪でスタイルも良く,溢れ出るスター性が魅力(しかもスタンフォードコミット)。スタッツとして優れた結果はありませんでしたが,プレーの一つ一つにワクワクさせられます。双子の兄弟も同イベントに同時出場しました。

Jacob LombardはBAで世代2位にランクされるトップタレント。パワーツールは世代でも1位2位を争っています。6'1"と小さめですがバレルの感覚に優れており,空振りがいくつか見られましたが年齢の割に力強く洗練されたスイングには一見の価値があると思います。体が小さい分,スピードに優れていてSS守備も高評価。

Kevin Robertsは6'5"のOFでマルチスポーツタレント。身体能力だけなら間違いなく世代トップとされていますが,実戦での打撃はまだまだ発展途上という印象。

Connor Comeauはトップティアに属するような選手ではありませんが,打席での完成度はイベントに参加していた中でも上位に位置するように思いました。ドラフト時17.9歳で比較的若めながらコンタクトとパワーをある程度両立させ,プルサイドにもシャープに打球を飛ばします。しなりのあるハードなスイングで,体重がついたら間違いなくプラスのパワーに成長するでしょう。守備はあまり上手くはないようですが,バットファーストタレントとしてでも更に評価が上がってもおかしくないと思いました。

James TronsteinはU15などで過去何回か目にしたことはあるのですが,コンタクトスキルの良さが改めて印象に残りました。5'11"/160の小柄な右打者で,リストの使い方が上手くナチュナルなコンタクトセンスを持っています。驚くようなアップサイドは無くとも,どのレベルでも安定したスタッツを残せそうな雰囲気があります。


Michael Teasleyは先発を務め,前評判はそれほど高くありませんでしたがブーメンランのようなSLを多投して空振りを量産しました。スケール的に高い評価は得にくいでしょうが,一芸に秀でたタイプとして注目に値する投手だと思います。


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