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誰もいなかったはず…の話

 これを人に話すときに「映画のポルターガイストが日本で公開された何週間か前」と言っていたような気がするので、おそらく1982年のことだったのだろう。

 日曜日で、家にいた。高校生だったはずだ。

 お昼ができたと呼ばれて、台所に移動した。部屋の風通しをよくするため、真冬以外は廊下に通じるドアをあけておくことが多かったわたしは、その日もそうした。
 風が強い日ならば、勝手に閉まるのを防ぐために、ドアの脇に本など重いものを置くこともあったが、その日は穏やかだった。

 そのとき家にいたのは、両親のほかには兄、そしてやんちゃ盛りのオス猫だった。まだ1歳半くらいで体力があったが、その後の成長から考えると、まだフルサイズには遠かったように思う。

 さて、食事から30分くらいしてからだろうか。部屋にあるものを持ってこようと考えた。

 部屋には誰もいないはずだった。猫もわたしから少し遅れる程度で食卓近くにやってきたし、兄はわたしとほぼ同時くらいに、移動してきていた。

 そしてわたしは、自分の部屋の前で、絶句した。

 部屋の中にあった予備の椅子が移動してきて、こちら側を向いてドア部分を塞いでいた。背もたれの向きを考えると、部屋を背にして廊下を見るように座りたい人がいたかのようだ。

 事務用の椅子のようにローラーがついたタイプではなく、パイプが両サイドについていたインテリア用だったし、カーペットの上を簡単に滑るわけではないので、やんちゃな猫でもこの移動は無理だろう。

 当時の写真はもちろんないが、椅子の脚部分と全体のなんとなくの雰囲気が似ている画像を、ネットで探してきた(写真ACさん、ありがとうございます)。

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 おわかりいただけるだろうか。これが、部屋の入り口に「こちら側を向いて」置かれていたのだ。

 猫には無理。仮にこれを移動させることができたなら、かなり勢いよく体当たりをくり返さねばならなかったと思うが、実際にはわたしのあとを追いかけるように、ほぼ時差なく家族と合流した。

 ほかの椅子のほうが踏み台としては安定していたため、わたしが何かに使って忘れたということは、考えづらかった。仮に使ったのだとしても、その位置には椅子の高さが必要なものは何もなく、壁の上のほうが触れる程度だ。天井には、おそらく手が届かなかった。

 家族の誰に聞いても、知らないという。そもそも一緒に食事をしていたのだから、尋ねても意味がなかった。

 それから数週間後、ホラー映画が大好きだったわたしは、友達と「ポルターガイスト」を見に出かけた。そこでよく映画の名場面集などに使われる「椅子が積み上がる」場面を見た。

 なにやらそのとき「ああ、映画のネタとして脚本家さんが思いつくくらいなのだから、どこかの家で椅子が移動するくらいのことは、あるのかな」と、自分の家の椅子とセットになって、妙に忘れられないシーンとなった。

 猫がしゃべれたならば聞いてみたかったものだが、真相はわからなかった。


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ありがとうございます。よい日でありますように。
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エッセイや、短編小説を書いていきたいと考えて登録しました。 実生活での得意分野は食文化、食品流通など。趣味として詳しいのはコンピュータ、映画、ホラーなどです。 自己紹介用サイト → https://miyako.silk.to/
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