やはり、笑い話ではなかった
(約10日ぶりの投稿。みなさまいかがお過ごしでしょうか)
2月の末ころ「これは認知症ではないか」と考えたご近所さんの異変は、気のせいではなかった。やはり事態が進んでいる模様。しかも妙な声を出しているのは、わたしも何度か親しく会話をしたことがある、その家の奥様らしい。
(認知症なのか、似ていても別の問題かは不明だが、わたしは認知症かなと感じているため、以下はそのように書いている)
最近は接点がなくなったし、道ばたで出会うこともなくなってしまったので、お顔も拝見していない。シャキシャキしていそうなお方だったのだが…。
3月から4月にかけては、週に数回程度、朝晩に庭の方角に向かって大声で挨拶してくる声が鳴り響いた。みなさまどうのこうのと、内容はたいしたことはないのだが、毎回が決まり文句で、正直ちょっと怖いなぁと。
だがあるとき、家の中から大声で喧嘩が聞こえた。日々のことをご家族に注意されたのだろうか。ご家族の声は小さくて聞き取れないのだが、ご本人は大声で言い返していた。知らない人が聞いたら屋内で暴力でも振るわれていると勘違いしそうな、金切り声も混じっていた。
わたしは認知症高齢者と数年以上も同居していたため、認知症で自分の状況がわからない(あるいは認めたくない)人が、周囲がみんな悪者に見えてしまって、怒鳴り散らしたり、あるいは泣いてみたりする様子を熟知している。ああ、これはまだ症状としては初期だが、この先がたいへんだなと感じた。
かつては何人も住んでいらした家だが、減ってしまったらしいとはいえ、どなたかいまも同居していらっしゃるのならば、薬などを飲ませはじめているかもしれない、それでご本人が楽になればと、少しは期待をした。
それから数週間が経過。
ときおり家の中から声がするが、わたしが恐怖に感じるようなほどの事態はなかった。ゴールデンウィークでほとんどのご家庭が家にこもりきりであり、減ったにせよどなたか同居家族が見守ってくれているのだろうと、よい方向に考えていた。
ただ、深夜にどこか遠くから、声がしている気配が感じられる日もあった。
その人が締め切った室内で大声を出している(けれども雨戸があるためわが家には聞こえにくい)のかどうか、あるいははるか遠くを歩く無関係な誰かの声が、小さく聞こえてきているだけなのか——自信はなかった。
ところが。
昨日は夫が、事情があって深夜(古風に言えばまさに丑三つ時)に、家の前の道に出ていた。その数分間で、わかったことがあるそうだ。
その奥様が、わが家とは逆方向の道に向かって、2階の窓から何かを蕩々と語っているのが聞こえてきたという。それも話の内容がけっこうわかるほどだったというから、大きな声だ。
それがわが家の方角でなかったことはほんとうにありがたいが、逆にいえば、そちら方向の方々はかなり気味の悪い思いをされ、おそらくたいへん迷惑されていることだろう。
ご本人とは少し世間話もした間柄なので、もし同居のご家族ともその程度の関わりがあったならば、わが家に認知症高齢者が長くいた経験から、少しはお力になれたかもしれない。
だがこういったときに声をかけ合えるほどの親しい関係というのは、理想ではあるだろうけれども、普通は東京の住宅街に求められているものではない。
ここで何十年を過ごしていようと、やはりそれが東京という場所の限界なのかなと、さみしい思いがある。
家にいることの多い人間ですが、ちょっとしたことでも手を抜かず、現地を見たり、取材のようなことをしたいと思っています。よろしくお願いします。