原稿料未払いは裁判に勝つだけでは回収できない
雑誌原稿料未払いでとり組んだこと
フリーランスのライターである私が雑誌の原稿料未払いにあって、すでに1年以上が経過した。未払いは短期回収が一番といわれているだけに、すでに回収の糸口が途絶えてしまっている。
どうせダメなら裁判でケリをつけようかと思っていたら、パートナーに「自己満裁判やるんだね」といわれた。債権が回収できないのに勝訴だけ勝ち取ってなんの意味があるのか、ということだ。グサりときた。
そのせいで、しばらく心にとげが刺さったようになり、朝日や夕陽のきれいなものを見て、自分の心を見つめ直す時間を作った。本当に私がやりたいことは何なのか。
多摩川から照りつける陽光を眺めては自問自答を繰り返した。日差しは肌をじりじりと焼き尽くし、河川敷の凪いだ風は私を癒した。しかし、答えは出なかった。残念ながら。私は糸口をたぐりよせようと、どこかに細い糸はないか考える日々が続いていた。めっぽう執念深いらしい。
この案件を周囲に話すと「裁判すればいいのに」とか「告訴すればいいのに」といわれる。私も「そうだな」と思って、裁判や告訴について調べた。裁判のことも、告訴のこともまったく無知だった。全然簡単じゃない。
当たり前だが裁判には費用もかかるし、なにより弁護士費用がとにかく高い。べらぼうに高い。10件ほど弁護士事務所に電話やメールをしてみたが、相談料30分で5500円(無料のところもある)、着手金10万円、報酬は回収金額の10~20%というのが相場だった。
弁護士に依頼して訴訟を起こすとなると、未払い金額が100万円以上はないと損をすることもわかった。私の未払い金額では、回収できなければ弁護士費用や裁判費用を払って終わってしまうのだ。それこそ、事実上の敗訴だ。
「電話督促」が一番効果的
まずは、弁護士の着手金10万円分でできそうなこと片っ端からやってみることにした。まずは電話攻撃。督促の方法としては、これが一番有効な手だといわれている。
同じ未払いスタッフでも、「毎日何度も電話したら支払ってくれた」という例もある。相手が出たら、会話の内容を録音できる準備もした。しかし、相手は出ない。
内容証明の送付
電話の督促は続けたまま、内容証明通知を郵送する。内容証明に法的な効果がないが送付したという証拠が残るため、一度は出してみた方がいい。内容証明を送付して、連絡がくるという事例もある。私の場合は、これにも反応はなかった。
差し押さえができる「支払督促」
もし、同じように未払いに困っていて確実な証拠(納品した原稿・契約書・請求書など)があり、会社の口座もわかっていて先方が一方的な示談に応じないというようなときは支払督促を申し立てるのがいい。
難しそうだが、個人でも申請できる。申立書や記入方法は、支払督促のホームページを。申し立て内容についてわからない箇所は、簡易裁判所の書記官に尋ねれば教えてくれる。さらに後日、問合せがきて不明点、修正点を書記官が修正して提出してくれる(本当に神様のような存在)。
これは弁護士を介さなくても個人で申し立てができる上、2週間の猶予の後(相手が反論できる期間)、 仮執行宣言を申し立てれば強制執行の手続きを踏むことができる。相手が破産・再生手続きを行う前に、滞納している債権を回収したい。
ただし、2週間の猶予期間中に相手方が弁護士を通して訴訟に持ち込む可能性もある。その場合は、こちら側も弁護士を立てて裁判に望まなければいけない。
「訴訟に持ち込まれた!どうしよう」と慌てないで欲しい。資本金が1000万円を超える親会社との業務委託契約では、「下請法」が適用される。その場合、一方的な(理由のない)・契約打ち切り・減額・未払いは法的に認められていない。
●親会社と下請側は資本金額で決められている
出典:公正取引委員会発行「知るほどなるほど下請法」より抜粋
下請法(第1項第2号)の「支払い遅延」という項目をみてみよう。
下請代金の支払遅延 下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。
支払遅延した場合は、下請法の違反となるものだ。下請法の知識がないクライアントもいる。実は「口約束」での契約も違反に当たる。これはライターとして知っておいて損はないだろう。示談交渉が可能な相手なら、下請法について触れてみるのも手かもしれない。
また、下請法が適用される相手の場合、公正取引委員会に下請法違反を相談したり・申告するという方法もある。下請法の詳しくはこちら。
「裁判するか」「諦める」の2択しかないのか
もう、「裁判するか」「諦める」しかないのか。とういうところまできた。そこで最後にやった手段は、登記簿の取得だ。これは、法務局で法人登録されている登記簿である。
登記簿には、取締役の自宅が記載されている。その自宅宛に原稿料未払い請求書を郵送した。自宅を知られたとなければ、少しは焦って連絡がくるかもしれない。そう思ったが、これにも返答はなかった…。
ひとりで示談交渉をするのが怖い人へ
フリーランスは個人事業主であるがゆえに、存在を軽んじられたり、原稿料を減額されたり、セクハラやパワハラの対象になる案件も多く耳にする。
フリーランスという立場上「法人 vs 個人」「親会社 vs 下請側」という定義になってしまう。だから、ひとりで対峙するのが怖いという人もいるだろう。
催促や示談交渉のときに強い物言いで、納品したものに対してクレームや難癖をつけられたり、さまざまな問題を指摘されることもあるだろう。そんな思いをするくらいならと泣き寝入りする人もいるのではないか。
私も、示談交渉や自宅訪問をひとりでするのはさすがに怖いなと思った。そこで同業のライターに教えてもらった、日本出版労働組合連合会の出版ネッツに加入した。
出版ネッツは正式名称をユニオン出版ネットワークといい、出版労連(日本出版労働組合連合会)に加盟しています。出版関連産業でフリーランスとしてはたらく編集者、ライター、校正者、デザイナー、イラストレーター、カメラマンなど自立した職能人のユニオンです。
出版ネッツに加入すると(月額2,000円、新規加入月は5,000円)、トラブル対策チームが内容を精査して、相手側に示談交渉を進めてくれる。応対に慣れた専任者が2名、交渉の段階から立ち会ってくれるのでとても心強い。
フリーランスで泣き寝入りをしている人は、まずはここに相談をしてみてはどうだろうか。弁護士よりもとても話しやすいのがポイントだ。
「民事訴訟」で解決する
ここまで頑張っても、ダメだった場合は最終的には裁判ということなるだろう。noteにないものはないと感じている昨今。やはり、民事訴訟についての申し立てまでの記事を発見(こちらも参考に)。
請求書を出し忘れても回収できる
ちなみに、未払い案件で「自分が請求書を出し忘れたせいで、原稿料の入金が遅れた」という件もあるのではないだろうか。
今回の未払いスタッフの中に請求書を出していなくて、確認したら「60万円の未払いがあった」という人もいた。
実は、例え請求書が遅延していても、親会社は請求書を催促して60日以内に支払う義務がある。こちらも下請法に適用されるので、ぜひ参考にして欲しい。
A. 下請事業者からの請求書の提出のあるなしにかかわらず,受領後60日以内に定めた支払期日までに下請代金を支払う必要がある。
なお,親事業者が,社内の手続上,下請事業者からの請求書が必要である場合には,下請事業者が請求額を集計し通知するための十分な期間を確保しておくことが望ましく,下請事業者からの請求書の提出が遅れる場合には,速やかに提出するよう督促して,支払遅延とならないように下請代金を支払う必要がある。(下請法の質問コーナーより)
納品したものを「自分の実力がないから」などと卑屈になって、泣き寝入りしないで欲しい。労働の対価をきちんと求めて欲しいと思います。
(以下、公にしたくない部分が書かれた箇所からは有料記事です)
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グレーゾーンの知的障害者の家族のコミュニティや生活のあり方などをもっと広めたいと思っています。人にいえずに悩んでいる「言葉にしたい人」「不安」を吐き出せるような場所を作りたいです