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君のサンタでいさせて

確かあれは小学5年生の時だった。
いつもより随分と早くに目覚め、枕元を確認したらプレゼントが置いていなくて
「…私、今年何か悪いことしたのだろうか?」と悲嘆にくれていると、いや、くれるほど長い時間ではなかったはずだ、隣で寝ていた母が、グァバ!!と起きた。
瞬時に何かを悟った私は、すぐ寝たふりを開始した。
すると母は、忍足なのにバタバタと寝室を出ていき、そしてまた忍足でバタバタと戻ると、枕元に何かを置いて、シレッと二度寝に入った。

薄々はそうじゃないかと思っていたんだ。

その数年前にサンタさんにお願いしていたのは自分が身に纏うお姫様のドレスだった。
当時、コスプレなどという言葉はなかった(少なくとも母の周りでは)し、ドン・キホーテみたいな安価なパーティグッズ売り場もなかった。
娘にドレスを贈ろうとするならば、七五三よろしく、高額を支払わなければ手に入らなかったはずである。
「どこに着ていくんだそんなもん…」両親は悩みに悩んだ末、苦肉の策として、リカちゃん人形のドレスを用意した。

それで、その日の朝、私は相当なショックを受けた。
「サンタさん、間違えてる…!人形のじゃなくて私のドレスが欲しかったのに!」
すると、母は言った。
「人間のドレスだと、靴下に入りきらないからじゃない?大きすぎたんだよ!」

その理屈が通るなら、弟のプレゼントはなんなのだ。
なんかやたらデカい箱に入ったボードゲームみたいなものをもらっている。
「だってあれはほら、ちゃんとした子供のおもちゃだから大丈夫なんだよ…」
しどろもどろの説明をする母に、疑惑の眼差しを向けてみたものの
「じゃあ、返しちゃおうか?ただ、欲しいものをくれるのは来年のイブになると思うんだ」
そう言われるとそれはそれで惜しくなる、リカちゃんのドレスは、それは豪華なものだった。

そして、真実を知る朝が来た。

二度寝に入った母の様子を伺いつつそっと枕元を見ると、そこにはやっぱりプレゼントが置かれていた。
あの時のプレゼントが何だったかが、どんなに考えても全く思い出せないのだけれど、とにかく私は泣きそうだった。
中を確認すると、希望通りのものだったはずなのだ。
母が、のそっと起きて「あ!今年はなんだった?」と聞いてから、私の様子を見て
「欲しかったものじゃなかったの?」と不安気に聞いた。
ちょうどそのタイミングで弟が起きて「あ!!サンタさんからプレゼント!」とはしゃぎ始めたので、私は押し黙ったまま、プレゼントを抱えてなんとか笑った。

薄々は気づいていたはずなのに、思いの外ショックを受けている自分が一番ショックだった。
思った以上にサンタさんを信じていたのだ。
同級生が、サンタを信じている人を馬鹿にしているのなんて何度も聞いていたし、
「そんなこと知ってるけど」なんて、冷めた風に言ってみたりもしてたのに。

その日の夜に弟がいないのを確認して、母に
「実はお母さんが用意してるのを見ちゃったの」と言ったら、母はかなりあっさりそれを認めた。
「ごめんごめん、用意するの忘れて寝ちゃって、しかも朝寝坊しちゃった!」
でも、弟くんにはまだ言わないでね。と付け加えて母はさらに言った。
「もうクリスマスプレゼントは卒業だね。もう10歳だもんね」

え。卒業とかあるの?
え。おニャン子クラブ的な組織なの?
(当時爆発的人気のアイドルグループ。メンバーに卒業があった。え。知ってる…よ、ね…?)
じゃあ正体見たりなんて、打ち明けなければ良かったんじゃないの?


今なら分かる。
信じてる信じてないの微妙な駆け引きや、プレゼントの内容をダイレクトに聞き出せない面倒なパターン、何より、正月のお年玉シーズンを控えての出費。
加えて1月生まれの私は、お年玉シーズンを終えてなお、プレゼントを貰う気満々なのだ。
そろそろこのファンタジーに終止符を打とうぜ?という母の気持ち。

母は宣言通り、翌年からクリスマスプレゼントを打ち切った。
いや。
弟の手前、プレゼントは用意してくれた。
しかしなぜか、塗り絵だった。赤毛のアンだった。
…小学6年生に塗り絵。
せめてかわいい文房具であれよ!!と散々不貞腐れ
「プレゼントもらって文句を言うなど言語道断!」とめちゃくちゃ叱られた上で、本当にこれが最後のクリスマスプレゼントとなった。
アンがダイアナに酒を飲ませてしまうシーンだけキレイに塗った記憶が残っている。
今となっては、それが印象深くなっていてラストプレゼントに相応しい気がするんだから、母侮れない。


さて、時を戻そう。
現在小学5年生の娘。
どうやら、クラスメイトから散々言われているらしい「サンタなんていない」論。
何回か私に確認をしてきたのだが
「あなたがいると思っているならいるんじゃない?いないと思ったらプレゼントは届かなくなる、お母さんがそうだった」
で今のところ通している。
「ほうほう…」という顔で、今年はヘアアイロンが欲しいと具体的に色まで指定してきたその顔は、真実を知っているようで、それでもどこかあどけない。


ずっと頑なに信じていてほしいわけでもないのだ。
そろそろ卒業だとも思っている。
だけど、冷めた顔して「どうせ親でしょ」などと言って欲しくもない。
ここまでずいぶんとファンタジーの一端を担ってきたのだ。
もはや、君だけのサンタクロースという点において、本物を超えた本物という自負がある。
きっとあの頃の両親もそうだった。
出費はともかくとして、だ。

もう少し君のサンタでいさせてほしい。


そんなわけで、今年もマイサンタは躍動的です。
皆様も、メリークリスマス!
Ho-ho-ho!









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