浜辺三姉妹〜前回までのあらすじ〜
(前回までのあらすじ)
「えーっ! またお姉ちゃんが増えるの!?」
驚いているこの子、高校2年生の浜辺夏。
それもしょうがない。夏の父が連れ子持ちの女と再再婚したからである。
これで姉が二人増えたことになる。
2年前浜辺栞がやってきた。栞も前の母の連れ子だ。今は高校3年生。訳あって父が栞を引き取った。
今は2階の寝室で眠っている。
そして今回やってきた浜辺薫、大学1年生。
早朝、夏は薫と初対面した。
「はじめまして。浜辺夏です。父の本当の娘です」
「ベーコンを求めてソーセージを投げる」
「はい? あ、ベーコン? ベーコン用意すればいいですか?」
「これ、ドイツのことわざ。小さな労力で大きな利益を得るって意味」
「は、はあ」
「パンとワインで進んでいける」
「パ、パンはありますけど、ワインは置いてないですね」
「肩肘はらずに努力すれば道は開けるという意味です。フランスのことわざです」
「さっきからことわざばっかですね」
「大学で外国のことわざを学んでいるので」
「そうですか……」
「パンにバターを乗せて食べる」
「えーっと、フランスですか?」
「いや、パンとバターをお願いします。いつもご飯の用意は歳下が用意するって決まっているんで」
薫は郷に入っても郷に従わないタイプだ。
元凶となる父の又二郎は「後は全部任せた」と言い残し新しい母、美織と新婚旅行と称し旅へと出て行っていた。
草津旅行というのに、麦わら帽子にサンダル、レイバンのサングラスとは少々浮かれすぎである。
薫が家を出て行った後、目を擦りながら栞が2階から降りてくる。これがいつもの光景。
「姉ちゃん、パン焼けてるから」
栞は家を出る10分前にしか起きて来ない。
だからいつも夏が栞の朝支度をしている。
「いちごジャムは?」
「塗った」
栞、パンを見る。
「はい、オレンジジュース」
夏、コップに入ったオレンジジュースを出す。
「何パーセント?」
「果汁100%です。先に顔洗って来なよ」
「ジャム……」
と、まだ栞はウトウトしている。
夏は栞の背中を押しながら洗面所へと運んでいく。
栞、あくびをしながら顔を洗う。
ゴポゴポゴポ……。
あくびしながら顔を洗うため、よく溺れる。
「ちょっと大丈夫⁉︎」
ようやく朝食にありつけた栞。
食パンを見ている。
「ジャム、端っこ塗れてないよ」
「口に入れて咀嚼したら同じ味でしょ?」
「この塗られてないところ味しないじゃん」
「味なくても食べれます」
「味のないガムいつまでも噛める派?」
「……わかった、ジャム塗るから先に着替えてきて」
仕方なくいちごジャムを丁寧に塗る夏。
「早く着替えてー!」
「朝からミンミンうるさいなあ」
と、渋々着替えに行く栞。
やっと制服姿になった栞。
食パンを食べている。
「あと3分で出ないとバスなくなるよ」
「オレンジじゃなくて牛乳は?」
「100パーセントって言ったじゃん」
「言ったけど、普通いちごジャムにオレンジかな?」
「もういいや」
夏、オレンジジュースを一気飲みし、空いたコップに牛乳を注ぎ。
「あとさっき言ってたミンミンってどういう事」
牛乳をテーブルに置くと栞の姿はなくなっている。
「あれ? お姉ちゃーん?」
「はーい」と遠くから聞こえる。
栞、3分前になるといつもトイレに籠る。
「お姉ちゃんまずいって。間に合わないよ」
「牛乳は?」
「え、そこで?」
「排出しながら注入した方が効率良いでしょ?」
「牛乳がそのまま出る訳じゃないんだから」
栞の手がトイレの隙間から出てきている。
夏、仕方なく牛乳の入ったコップを受け渡す。
「あと1分!」
夏、栞の支度に気を取られて自分の支度ができていないことに気づく。
「私の支度もしなきゃ!」
夏、2階へ駆け上がっていき、バッグを持ってくる。
室内干ししている靴下を洗濯バサミから外し、おっとっととなりながら靴下を履く。
「お姉ちゃんいくよ!あと30秒!」
「トイレットペーパーないみたい」
「え! もういいじゃん」
「ダメだよ」
「あ、あの頭の上の扉に入ってるでしょ⁉︎」
「あー、あったあった」
「随分余裕あるね!」
夏、玄関で靴を履き、いつでも出れる準備を整える。
トイレから「ジャー」と水の流れる音。
コップを持って出てきた栞。
「お姉ちゃん、早く!」
「あれ、今日土曜日じゃね?」
「え?」
今日は土曜日。学校は休みである。
そう言うわけで、薫、栞、夏の三姉妹で過ごす一週間がやってきた。
ここまでが前回までのあらすじ。
終わり
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