【詩】存在と差異

 


彼は生きると同時に死んでいた。

むしろ死にながら生きていたのかもしれない。

彼は孤独でありながら多くの交流を楽しんでいた。


目覚めながら同時に眠ってもいた。

むしろ眠りながら目覚めていたのかもしれない。

家族は彼の寝ているところをみたことがなかった。

また彼が仕事をしない日も見なかった。


彼は非常に年をとっていた。

それと同時に非常に若かった。

ある人は彼は成熟していると言った。

ある人は彼は精力的だと言った。




彼は言った。

生きることと死ぬことは、同じひとつのことである。

眠ることと目覚めることも同じひとつのことである。

年をとることと若返ることも同じひとつのことである。


そこに差異を想像するのは常に人間側の課題である。

存在しないものを想像し続けて語りついでいるに過ぎない、と。



そして彼はいつまでもただ存在し続けた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?