【短編小説】花畑




彼は白い花畑を歩いていた。

静かで落ち着いた光景だった。

そよ風が花びらを揺らす。

足音も聞こえない静寂の世界に彼は満足していた。


彼を取り巻く魔の世界があった。

彼の心は不穏な影に追われていた。

遠くから聞こえる呼び鈴が彼の恐れを増していく。


花畑の真ん中に立った彼は半生を振り返っていた。

かつて彼を彩った喜びと、苦悩の数々に思いを馳せていた。

そして、目前に迫る暗い影の世界を思った。


ふと彼に一輪の白い花が差し出された。

花は光り輝いていた。

受け取った彼の心は優しさに包まれた。

かつて彼が受け取ったどんな優しさよりも力強いものだった。

花を見つめながら、彼は未来への恐れがなくなっていくのを感じた。


花畑の先へ進んだ。

色とりどりの花が咲き乱れていた。

彼は静寂と平和と安寧の世界を見た気がした。

そして自身の行く手に待ち受けている世界を思った。


ベッドの上で目覚めた。

彼の心はいまなお花に囲まれていた。

彼は自らの人生を振り返り、それを受け入れることにした。

「これでよかったのだ。これ以外に、私の人生はあり得なかったのだ」


その瞬間、彼の心から死への恐怖が消えた。

彼は穏やかな笑みを浮かべた。

そして、再び眠りについた。


再び目覚める時に彼はどこにいるか、誰も知らないだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?