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[ナカミチの考察(VOL.3)] 730 - 世界一美しいといわれたレシーバーアンプ

今回は、レシーバーアンプの730を取り上げます。
この730というモデル、実はナカミチが初めてレシーバーアンプを世に出した記念すべきモデルになります。その為か、技術面のみならずデザイン面でも、とても力の入っているモデル。私はナカミチ歴代トップのレシーバーアンプだと思います。


プロローグ


「え、ナカミチってカセットデッキ以外にも出していたの?」
オーディオが趣味の方とお話しをする際、よく聞く言葉です。
宣伝が足りなかったのか、ナカミチをカセットデッキ専門メーカーと思っている方が多くおられます。ナカミチはカセットデッキ以外に、プリメインアンプ、レシーバーアンプ、チューナー、CDプレーヤー、DVDプレーヤー、AVアンプ等など、他の大手音響メーカーと同じく、いや、アクセサリー類を含めると、それ以上に数多いモデルをリリースしていたのです。今後、このコーナーではカセットデッキ以外のモデルについても取り上げていきます。

さて、今回はそのカセットデッキ以外の第一弾として、レシーバーアンプの730を紹介します。それでは、まず特異な?カタログから見ていきましょう。

カタログについて


カタログ表紙

「Nakamichi730Receiver」左上にモデル名の表記。下に730のフロントフェース。その上に黒い猫。コピーの類は、一文字もありません。
 
四つ折りのカタログですが、横手に開くと、

カタログ見開き2面

見開き面には、こちらを向く緑色の瞳を持つ「猫の両眼」が・・・
頭が混乱している状態で、次に目に入ってくるのが
『緑色の眼をした悪魔にあったか?』というコピーです。

さらに、コピーを右に読み進めると、
「そいつは、信じられないほど美しい声で歌った」
「そいつは、指先でほんのかすかに触れるだけで、俺の意のままに従った」
「そいつは、美しい顔をちょっと曇らせながら日本人を批判しやがった」
という3つの見出しがあり、それぞれ特徴となる機能を小説仕立てで紹介しています。
まあ、およそ常識的なオーディオのカタログとは思えません。

四つ折りを全て開くと、やっと普通のカタログになります。
右上にある定価の表示は24.8万円。当時の大卒初任給が約10万ですから、2.5か月分。結構な高級機だったと思います。

カタログ見開き4面

パワーアンプ部


電源部

プリメインアンプとしては大出力の105W+105Wというスペック。このコンパクトなサイズにして、このパワーは結構大きい数値です。これは、電力損失が少なくなるように回路的な工夫がされている恩恵だと思います。入力コンデンサにNFを掛けることで、歪を低減し実質的にはDCアンプと同等の効果を得たこと、またダイキャスト基板、ヒートシンクをL、Rで独立させることで、チャンネルセパレーションを向上させています。電源部には重量5.2Kgのトロイダルトランス、大型の平滑コンデンサにより、安定した高出力が可能になっています。

プリアンプ部


回路構成だけでなく、配線に至るまで細心の注意を払った設計により、セパレートアンプ単体を凌ぐほどの性能を実現しています。信号線の配線の引き回しは音質の悪化につながるところですが、C-MOSアナログスイッチで電気的なファンクション切り替える方式を採用することにより、スイッチを任意のところに設けることが出来るのと併せて、機械的接点による劣化も避けることが出来ています。

チューナー部


チューナー部

当時、まだダイレクトコンバージョンよりも、スーパーヘテロダイン方式が優れていた時代で、このモデルは4連エアバリコンが使われています。この方式として、性能面ではほぼ極めていたと思います。この性能の上に、モータードライブ機能とセルフロックチューニング機構を搭載したので、自動化に伴った受信性能の犠牲がありませんでした。

タッチコントロール部


ボリューム部

すべての操作が、軽く触れるだけのタッチコントロールになっています。
ボリュームコントロールについては、上下のボタンの外側、内側でボリューム変化スピードが変わります。また選局のプリセットチューニングは、個々のプリセットスイッチに対応したボリュームの位置で希望局を同調します。
  
1978年当時、フロントパネルの操作系がタッチスイッチ式、アナログチューナーでプリセットチューニング選局、そしてスマートで直感的に判りやすいインターフェースと、「真に優れたレシーバーアンプとは何か」を問いた、ナカミチの挑戦的なモデルであったと思います。

スペック


[電源部]
電源電圧          :100V 50/60Hz
消費電力          :400W
[アンプ部]
実効出力          :5Hz-20KHz 8Ω 0.02% 105W+105W
              :5Hz-20KHz 4Ω 0.1% 150W+150W
全高周波歪率        :0.004%以下(1KHz以下)
              :0.008%以下(10KHz以下)
              :0.02%以下(20KHz以下)
混変調歪率         :0.004%以下(Aux→SP出力・8Ω・105W、60Hz:7KHz=4:1)
パワーバンド幅       :10Hz-20KHz(8Ω・50W・歪0.01%)
ダンピングファクタ     :100以上(8Ω・1KHz)
周波数特性         :10Hz-30KHz +0.3,-1dB(Aux,Tape→SP出力8Ω)
                                            :10Hz-30KHz +0,-1dB(Main in→SP出力8Ω)
:30Hz-15KHz ±0.3dB(RIAA偏差)
ノイズレベル・SN比     :83dB以上(-137dB入力換算比)
[チューナー部]
受信周波数          :76MHz~90MHz
実用感度           :2.2μV(12dBf、IHF Mono 84MHz)
イメージ妨害比        :85dB(84MHz)
IF妨害比             :85dB(84MHz)
スプリアス妨害比          :90dB(84MHz)
SN比 (MONO)          :75dB
(ステレオ)      :68dB
全高周波歪率(MONO)     :0.1%以下(1KHz)
      (ステレオ)     :0.15%以下(1KHz)
[全体]
大きさ            :W500xH90xD370mm
重量             :約17.2kg
販売年            :1978年
当時の定価          :248,000円
  
出典: 株式会社中道研究所 730レシーバー カタログ (1980年)

今回は、ナカミチのレシーバーアンプでも特別にレアな730を取り上げました。アナログチューナーでありながら、フロントパネルにメカニカルスイッチ、同調ツマミ、音量調整ノブが無いという当時としては先進的な機能とデザインであったろうと思います。時代の先を行き過ぎていたかもしれません。先日、ご縁で元ナカミチで730のメカ設計をされた方と知り合ってお話するチャンスがあり、「ビスが見えないデザインせよ」との上長からの要求で苦労されたと伺いました。ビスだけでなく、各所に及ぶ拘りに納得した次第です。

2023.7.15


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