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メンテナンスサービス開始

これまで、100台以上ナカミチに特化してメンテナンスしてきました。その経験を生かして、ナカミチを愛するオーナーの方にご協力出来ればと思い、対応モデルなど限定的ではありますがメンテナンスをお受けすることにしました。(近日中に開始予定)


*初めに

正規サービスとの兼ね合いも考慮して、当面対応モデルは1000ZXL、700ZXL、700ZXEと致します。モデル毎に経年劣化する部分にフォーカスして、オーバーホールをさせて頂きます。(オーバーホールは修理でありませんが、調子を崩す予防処置になると思います)

納期的には1か月ほど頂戴することになりますが、リフレッシュすることでこれからも長くナカミチの音をグッドコンディションでお楽しみ出来ると思います。まずはお問い合わせください、noteからのお問い合わせに併せて、X(twitter)やInstagramからのDMでも大丈夫です。

1000ZXLのメンテナンス項目(概要)
・サイレントメカのリフレッシュ
・信号切替用リレー交換(密閉型リレーに換装)
・再生アンプ初段FET交換、DCオフセットずれ最適化
・オレンジキャップ(フィルムコンデンサ)全交換
・タンタルコンデンサ交換(積層セラミックコンデンサに換装)
・基板の全点再ハンダ,脱フラックス,防湿コーティング
・ムギ球を全交換
・サービスマニュアルに基づく調整

以降、1000ZXLについて、メンテナンス項目の詳細を記載しますが、700ZXL及び700ZXEについては1000ZXLに準じた内容となります。

*サイレントメカのリフレッシュ

兎にも角にも、基本となるメカが正しく動作していないと、幾ら電気的に正常であっても、トータルとしての動作は成立しませんので、最初にメンテナンス作業を行うのはサイレントメカからとなります。

ナカミチ・サイレントメカ

メカを全バラにして、古くなったグリス(オイル)を脱脂および清掃し、破損が無いか確認し、その場所に最適な油脂を注油し、ゴムベルトなどのゴム部品の交換して組み直します。

・フライホイールの清掃
 フライホイールにはゴムベルトが常に接触しています。また稼働時には駆動トルクによる摩擦、静電気、埃などで汚れが付着します。適切なクリーナーにて初期に近い状態になるまでクリーニングします。

・キャプスタン用ベルトの点検
 現在のキャプスタンベルトが当初のナカミチ純正のオリジナルベルトあるか、否かを確認します。ナカミチ純正のオリジナルベルトは最適な製造工程で作られ、一つ一つ測定治具に取付、左右裏表の4種類でワウフラッターを測定し、一番良い状態となる向きにマーキングされて組み込まれてます。したがって、劣化状態をみて使用に問題がなければそのまま使用します。互換ベルトに交換済みである場合は、新品に交換します。

・メカコントロール用ベルトの交換
 稼働していない状態が長く続くと、一定のベルト位置(STOP時)でテンションが掛かった状態になります。それにより、ゴムベルトが変形した状態で硬化し伸縮性が損なわれ、動作時にテンション抜けが起こります。動態保存のために、定期的に動作させることが必須なのは、これが理由の一つです。

・アイドラホイールゴムの交換
 メカコントロールベルトの劣化と同様にアイドラホイールのゴムも同じことが起こります。リールモーターのアイドラプーリー(金属)にアイドラホイールがテンションで押し付けられています。その状態が長く続くとアイドラホイールのゴムに凹みが付いて戻らなくなります。この凹みにより、再生、特に早送り/巻き戻し時にカタカタと不快な音が断続的に発生します。さらに劣化が進むとゴムが完全に硬化し、駆動トルクが伝わらず空転し、再生不可、早送り/巻き戻しが出来なくなります。
未使用の状態が長く続くと(1か月以上が目安)容易に、同状態になってしまうので、定期的に動作させてあげることが必要です。

・アジマス調整ベルトの交換

アジマス調整ベルト

キャプスタンベルト、アイドラゴムに対して、見落としがちなのがアジマス調整ベルトです。このベルトが劣化するとABLE動作時、(録音ヘッド)アジマス調整に時間が掛かったり、ABLEが途中でエラー終了してしまうことになりますので、メンテナンスは必要です。メカコントロール用ベルトと同じ経過で劣化します。

アジマスインジケータ部

アジマス調整ユニットは内部にあり、通常は見ることが出来ない部分です。私のコダワリで薄く擦れてしまったアジマス・インジケータの目盛りは塗料でタッチアップします。

外部リモコンユニット(自作)

サイレントメカのメンテナンス後の動作確認では、フロントパネルを脱着した状態で行うことになります。したがってフロントパネルからの操作が出来ません。そのため、リアパネルのリモート端子にワイヤード・リモコンを接続して動作チェックを行います。

*信号切替用リレー交換(密閉型リレーに換装)

1000ZXLではマザーボード基板に2個、録音NR基板に1個が信号切替のためのリレーとして使用されています。このリレーは製造中止となっており、またピン配置が特殊であるために現時点で入手出来るピンコンパチブルな代替えリレーが存在しません。以前に流通在庫品を入手し、試したのですが構造的に接点が暴露しているタイプですから、経年変化により接触抵抗が大きく使い物になりませんでした。そのため、現在入手できる密閉型リレーを使用し、ピン配置を適合させるための変換基板を設計し、ピンコンパチブルで信頼性の高い密閉型リレーにより長期安定性が期待できる互換リレーを製作しました。リフレッシュ作業では、こちらの互換リレーに全て交換します。

信号切替互換リレーユニット用変換基板
オリジナルリレー(左側)と信号切替互換リレーユニット(中央、右側)

当然ですが、オリジナルのリレーとピンコンパチブルだけでなく、サイズ的にも同寸法内に収まるものになっています。

マザーボード基板(リレー交換前)
マザーボード基板(リレー交換後)

*再生アンプ初段FET交換

・再生アンプ回路は再生ヘッドからの微細な出力を低ノイズのデュアルJ-FETで受けてます。そのFETは経年劣化により、プチプチ、ブツブツといった可聴帯域で耳障りなノイズが発生します。この状態になると真面な再生が出来なくなります。このFETは設計年数が古く、生産終了品であり、流通在庫も枯渇していて、運よくあったとしても劣化している可能性が高いのです。実際に新品未使用品を以前入手したのですが、ペア品として使用できる状態ではありませんでした。ということで、信頼のおけるパーツ商社にて特性の揃った単体品のFETを入手、測定治具にて全数特性を測定し、特性の揃ったものをペアリング、熱結合させてパッケージしたものをメンテナンス用に製作しました。また併せて、J-FETのDCオフセット調整用半固定抵抗を信頼性高い多回転ポテンショメーターに交換し、調整性向上と長期安定性を担保しました。

ペアJ-FET
メンテナンス前
メンテナンス後


*オレンジキャップ(フィルムコン)全交換

ナカミチの回路に多く使われている部品に通称オレンジキャップと呼ばれているPPコンデンサがあります。これが経年劣化により、オープンモードまたはショートモードで故障することが高い頻度でおきます。現時点では大丈夫でも、何時故障するかはわかりませんので、予防策として全数交換します。

メンテナンス前
メンテナンス後

*タンタルC交換(積層セラミックCに交換)

 少数ですが、一部にタンタルコンデンサが使用されています。このコンデンサは故障時にショートモードで故障します。一部は電源ラインに入っています。故障すると電源部を道連れにする可能性もありますので、予防処置として交換します。セラミックコンデンサは音質面では不利なのですが、音声信号ラインには使用されていませんので、信頼性の高い積層セラミックコンデンサに交換します。

*基板のリフレッシュ

・基板の全点再ハンダ
 製造からかなりの年月も経過していますし、使用による熱ストレスも掛かっていますので、ワイヤーポストピン部など機械的ストレスがかかる部分は特に半田割れが起きやすい状況になっています。今後の予防処置を含めて、点数もかなり多いのですが、全点の再ハンダを行います。

・脱フラックス
 再ハンダ後、半田フラックスを除去します。

・防湿コーティング
 脱フラックス後、錆・腐食防止のために防湿コーティングを実施します。

*ムギ球の全交換

設計当時、既にLEDはありましたが、ムギ球同等の輝度を持ったLEDはまだ販売されていませんでしたし、あったとしてもムギ球とのコスト差は1桁以上あったと思いますので、不採用だったのでしょう。現在でしたら、そのようなスペックのLEDは存在し、価格もそれほど高価でもなく、ムギ球の熱害を考慮するとLEDに換装するということも可能です。また色調的にも、電球色、ウォームホワイトなどのLEDもあり、違和感は少なくなったのですが、LEDはムギ球に比べて圧倒的に点灯までの立ち上がり時間が早いのです。ムギ球の少し間があって緩やかに点灯する部分では同じではなく、オリジナルに対して違和感があるのです。そのため、敢えてムギ球にコダワリ、LEDへの換装は行わず、新品のムギ球に交換しています。また輝度のバラツキが無いように、事前に点灯させて輝度を揃えています。

・ABLE/RAMM用インジケータ(カセットリッド照明用)

交換前
交換後


輝度の確認

・操作インジケータ部
操作インジケータ部も同様にムギ球を全交換します。因みにこちらは輝度が高い物を使用します。

操作インジケータ部

*調整について

前述した全てのメンテナンス項目が終わって、やっと調整作業となります。調整はナカミチ発行のサービスマニュアルに基づいて実施します。これは私のコダワリですが、サービスマニュアルはオリジナルの原本を入手して使用しています。スキャンした電子ファイルをダウンロードすることも出来るのですが、回路図の鮮明さが違うのです。また追補版や付記などの点で異なることも少なくありません。

オリジナルのサービスマニュアル

また調整時はナカミチ専用のテストテープなど各種テスト用テープを使用して調整を行います。

ナカミチ専用テストテープ
各種テストテープ
各種トルクメーター

また、この1000ZXLの調整には専用テストユニット、延長ボードが必要になります。こちらが無いと、サービスマニュアルに基づく調整が出来ないのです。

専用延長ボード
専用テストユニット

*ウッドケースについて(オプション)

1000ZXLは専用のウッドケースに収納されています。これは高級感があって、所有する満足度は高いのですが、金属ケースと比較するとダメージを受けやすいという弱点があります。

過去にお取引のある腕の良い木工家具職人の方に、依頼したところ綺麗に修復して頂いて、その後は全て依頼してます。

標準リフレッシュ作業に対して、オプションとなりますがご依頼頂ければ、追加で施工致します。

上部天面(上側:補修前、下側:補修後)
上面右角(左側:補修前、右側:補修後)
前面上部エッジ(上側:補修前、下側:補修後)
補修前
補修後

*NR-100について(オプション)

1000ZXL、700ZXL、700ZXEには専用の外部NRユニットであるNR-100があります。このNR-100も内部に使用されているオレンジキャップが経年劣化で動作不良となる可能性があります。オプションとなりますが、こちらもご希望でメンテナンス致します。

NR-100


オレンジキャップ交換前
オレンジキャップ交換後

*その他

内部・外装部を含めて数多くのビスが使われています。メッキ処理されたビスが使用されているのですが、長い年月経過とともに錆までは出ていなくても、くすんでしまっています。これによって、どうしてもクタビレ感が出てしまいます

フロントパネル固定用化粧ビス
各種ビス

そこで、同仕様の新品ビスに全交換します。
これにより、全体がシャキッとして、見た目の印象が良くなるのです。

交換で取り外したビス

色(黄クロメート、黒クロメート)、材質(鉄、ブラス、ステンレス)、種類(タッピング、JIS規格、頭の形状、長さ、径)でかなりの種類が使用されています。入手には少数では購入できず、小箱(1000本以上)になる種類等もあるのですが、それでも交換するというのは、私のコダワリです。

*最後に

自室の1000ZXL(1号機、2号機)

ナカミチのカセットデッキのフラッグシップである1000ZXLはマガジンでも取り上げましたが、間違いなく性能は世界トップレベルのモデルです。スペックを見れば、お稽古/カラオケ用のテープであろうと周波数は23KHzまでフラットで録音再生されます。部屋の片隅で埃をかぶっている且つての名機をメンテナンスして復活させ、最初に手に入れた時の感動を再び味わってみませんか。オーナー様の想いに寄り添ったメンテナンス作業でお手伝いをさせて頂きます。

2023.9.23

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