見出し画像

栃木県における緊急事態宣言期間の振り返り(2)

前回までは…

21/8/20から9/30まで、栃木県としては3回目となる新型コロナウイルスの「緊急事態宣言」が発出された。前回の記事では、その期間+前3週間における栃木県の「自治体別の状況」について振り返った。この記事はその続きとなり「新規陽性者数、L452R株(デルタ株)への置き換わり」について振り返る。

・第1回…自治体別の状況
第2回…新規陽性者数、L452R株(デルタ株)への置き換わり(この記事)
・第3回…療養者の内訳および病床使用率、死亡者数
・第4回…クラスターの内訳
・第5回…ワクチン接種率

この記事において検証する期間は、前回と同様に次の通りとする。

・7/30〜8/7…県版まん延防止等重点措置(9日間)
・8/8〜8/19…まん延防止等重点措置(12日間)
・8/20〜8/30…緊急事態宣言措置(42日間)
・合計…63日間

なお63日間における新規陽性者数、退院者数、死亡者数、および発生したクラスター件数は以下の通り。

栃木県における重点措置・緊急事態期間の各人数・件数

また記事内で使用している各数値の引用元については、表示している画像内と、このページの最下部に記載。

そして、あくまで一個人の素人が行った振り返りであり、医療関係者や行政関係者といった専門家が行ったものではないということも予めご了承願たい。

人口10万人あたりの新規感染者数の推移

7項目ある警戒度指標のうちの1つである「直近1週間における人口10万人あたりの新規感染者数」について、7/30〜9/30までの栃木県における推移は以下の通り。

人口10万人あたりの新規感染者数の推移

県版まん延防止等重点措置が発出された7/30の時点で既にステージ4の数値を超えていた(30.2人(発表時))
しかしその後、国のまん延防止等重点措置、緊急事態宣言が発出されても減少傾向にはならず、8/23には過去最多となる「70.7人(発表時。後日追加判明した分を加えた最終値は77.9人まで上昇)」となった。ステージ4の基準は「25.0人」なので、実に基準値の3倍の値となる数値だ。
しかしながらここまで悪い数値でありながらも同時期の全国で見た場合、栃木県は25位前後であった。基準値の3倍でも充分過ぎるほど悪い数値だが、さらにそれ以上に悪い数値の都府県が20以上あったということに、この時期いかに全国的に感染状況が極めて悪化していたかということがわかる。

9月に入ってからようやく減少傾向となり、宣言解除前の9/22以降はステージ3を下回る数値(15.0人未満)となった。

陽性者の推移

7/30〜9/30の期間、栃木県内で発表された陽性者の推移は以下の通り。

日別:陽性者数の推移

第5波以前、それまでの栃木県における過去最多件数は1/8の150例であった。その数値を7/31には既に上回ってしまい(170例)、その後8/4(178例)、8/14(195例)、8/18(200例)、8/19(273例)と4度も過去最多を更新した。また200例以上発表された日も8/18〜8/28までに8日間もあり、今までの栃木県では経験をしたことがない状況が続いた。
そこをピークとして9月に入ってからは9/6を除き前週同曜日の数値を下回る数が発表され、宣言解除の頃には20例前後にまで減少した。

陽性率・検査実施件数・医療相談件数の推移

この期間の警戒度指標の1つである検査陽性率と、検索実施件数の推移は以下の通りとなる。

直近1週間における検査陽性率の推移

日別:検査実施件数の推移

直近1週間における検査陽性率は、指標としての数値が発表された日時点での数値に基づく。後日判明した陽性例や追加報告された委託分の検査実施件数によって確定値は修正される。
また検査実施件数についても委託分の検査実施件数が後日追加報告され、件数が上積みされることがあるため10/3時点での暫定値になる。
9/10あたりで検査実施件数が1日当たり4,000件を超えるなど急に増加しているが、理由について県からの公式な発表はないので不明。

なお4,000件超の検査を実施した翌週から検査実施件数がそれ以前と比べ減っているため「陽性者が少ない=検査を実施していない」とも読み取れてしまうが、同期間における栃木県の受診・ワクチン相談センターに寄せられた医療相談件数の推移も合わせて見てみる。

日別:医療相談件数の推移

医療相談とは、自身の体調に不調があり新型コロナウイルスの疑いを持った人が県のコールセンターまでしてくる相談だ。かかりつけ医がある場合はまずはそちらに相談をするフローに昨秋より変わったため、この相談件数が県内におけるコロナ疑いを感じた体調不良者の全てというわけではないが、件数の増減から傾向を読むことはできる。
この推移を見ると9月に入ってから医療相談件数は減少傾向にある。特に9/14以降はほとんどの日で100件以下となっており、コロナ疑いの体調不良を訴える人がそれだけ減少したことになる。それゆえに検査実施件数も減少したことに繋がっているのだろう。

居住地別・陽性者数の推移

7/30〜9/30の期間、栃木県内で発表された陽性者の居住地別の推移は以下の通り。

日別:陽性者数の推移(居住地別)

またこの期間の陽性者7,206人の地域別の実数、および割合は以下の通り。

陽性者の居住地別件数及び割合

宇都宮市、県南管内、安足管内が特に目立ち、3管内だけで全体の75.58%を占める。ただし宇都宮市は栃木県の総人口の26.68%を占める約52万人の人口を抱えるため、必然的に発表される陽性者数も多くなる。むしろ管内人口が約48万人の県南が、総数では宇都宮市よりも500例以上も多く、日別最多でも100例を超えた日(8/19:103例)もあるなど、人口比で見た場合より深刻な状況だった。また管内人口が約26万人の安足も同様に日別最多では66例(8/22)になるなど、人口が倍ある宇都宮市の最多(8/21:71例)に迫るほどの数が発表された。
また宣言直前までは那須塩原市、さくら市を中心とした県北管内での数も目立った。さくら市は8/6に発表された高齢者施設でのクラスター発生の影響が大きいが(43人規模のクラスター)入居されている高齢者の方は全員ワクチンを2回接種済、かつ接種から2週間以上経過していたにも関わらず、ここまでの規模のクラスターが発生した。改めてワクチン接種後も感染防止対策の重要性を実感させられた。
他に、他県居住者も比較的多い。第5波以前は他県居住者が2桁を超える数で発表されたことはなかったが、この期間は6日あった(8/7、8/11、8/13、8/14、8/24、8/26)以前から群馬県や茨城県など生活圏内の他県居住者が発表されることはよくあり、同期間の隣接する群馬県東毛や茨城県西は栃木県以上に深刻な状況になっていた。

そのため他県居住者の数が多くなるのも当然ではあるが、一方でこの期間は栃木県から遠く離れた都府県の居住者も目立っていた。ただし同期間においては、逆に遠く離れた県で栃木県居住者の陽性判明が発表された事例も複数例あった。

9月以降、県内全体が減少傾向に入っても県南(特に小山市、栃木市の2市)および安足(佐野市、足利市)は、他の市町と比べ減少幅が少なく、宣言解除の時点でも小山市はステージ4相当、佐野市はステージ3相当のままであった。そのためこの4市は10/1以降の県版まん延防止等重点措置の措置区域となった。

年代別・陽性者数の推移

7/30〜9/30の期間、栃木県内で発表された陽性者の年代別の推移は以下の通り。

日別:陽性者数の推移(年代別)

全国的に第5波ではワクチン接種済の高齢者が占める割合が低く、50代より若い世代、特に20代が占める割合が高いと言われていたが、栃木県においても全く同じ傾向にあった。
この期間の陽性者7,206人の年代別実数、および割合は以下の通り。

陽性者の年代別件数及び割合

50代以下で全体の90.22%を占めている。最も割合が高い年代は20代で全体の24.51%になるが、次いで30代、40代も多く、それぞれ17.06%、16.36%を占めた。また子供の年代の割合が高かったのも特徴。10歳未満は8.2%、10代は11.2%で、合算すると19.4%となり、親世代にあたる30代、40代とほぼ並ぶ割合を占めた。
一方60代以上は全体の9.7%と1割程度の割合であり、特に全員がワクチン優先接種対象である70代以上が占める割合は、全体の5%未満(4.62%)であった。
なおそれぞれの年代の栃木県の総人口(193万人)における実数、および割合は以下の通り。

栃木県の総人口における年代別人数及び割合

総人口で20代が占める割合は8.91%と2番目に少ない年代だが、陽性者の割合では25%近くを占めている。一方、総人口で70代以上が占める割合は21.53%もあるのに対し、陽性者の割合では5%未満と極端に少ない。おそらくこれはワクチン接種の効果だと思われる(ワクチン接種率等については、こちらの記事も参照

感染経路別・陽性者数の推移

7/30〜9/30の期間、栃木県内で発表された陽性者の感染経路別の推移は以下の通り。

日別:陽性者数の推移(感染経路別)

またこの期間の陽性者7,206人の感染経路別の実数、および割合は以下の通り。

陽性者の感染経路別件数及び割合

感染経路別の件数は発表時のデータに基づく。その後の調査により経路が判明した事例もあるが、割合に大きく影響するほどの数ではない。

感染経路別で最も多いのは孤発例、いわゆる経路不明事例だ。この期間、既存株と比較して感染力が高いL452R株(デルタ株)に栃木県内でも急激なスピードで置き換わった。それにより今までの対策なら感染を防げていたものも、L452R株では感染をしてしまったというケースもあっただろう。
ちなみにこの期間における警戒度指標の1つである経路不明割合の推移は以下の通りだ。

経路不明割合の推移

また次いで家族間による感染が多く、全体の22.86%を占めている。年代別割合で子供の年代が占める割合が比較的高いと触れたが、その年代の大半は家族間感染によるものであった。この期間、ちょうど夏休み期間にもあたり子供たちが学校等での他者への接触機会が少なかったことも家族間感染の割合が高くなった要因だと思われる。

L452R株(デルタ株)への置き換わり

7/30〜9/30までの期間を含む、栃木県においてL452R株(デルタ株)のスクリーニング検査が始まった6/14週〜9/27週までの結果の推移については、以下の通りとなる。なおスクリーニング検査結果は毎週月曜日に前日までの過去7日間の検査結果がまとめて公表されるため、推移も週単位となる。

L452R変異株スクリーニング検査結果の推移

スクリーニング検査が始まった当初4週は陽性率も0〜4.3%と低い水準で推移していたが、5週目、私が嫌な予感を感じた週は一気に3倍の13.2%に急上昇した。そこから翌週は41.7%、65.7%となり、8週目である8/2週には79.0%とほぼL452R株に置き換わってしまった。県内で拡がりが見られ始めた週からわずか3週後には置き換わってしまったのだ。

L452R株への置き換わりがいかに急激なものであったかは、今年の春のN501Y株(アルファ株)のスクリーニング検査結果と比較するとわかりやすい。

N501Y変異株スクリーニング検査結果の推移

N501Y株は検査を始めてから7週は陽性率0%で推移した。8週目でいきなり13.9%と急増したが、以降3週は同水準で推移。11週目で41.9%と再び急増したもののまた3週同水準で推移し、N501Yにほぼ置き換わったと思われる81.2%になったのは、13.9%となった週から9週後のことだった。

またL452R株に置き換わった今は行われていないが、8/20まではその日に判明した変異株(L452R株、N501Y株)の件数が報告されていた。栃木県内でL452R株、N501Y株が継続的に(ほぼ連日)報告されるようになった最初の日を起点とし、そこから50日間の報告件数の推移をグラフにしたものが以下になる。

L452R、N501Yが継続して判明してから50日間の推移

50日でL452R株、N501Y株が栃木県内においてどれだけ拡がったかを示すものだが、N501Y株はゆるやかなカーブを描いているのに対し、L452R株は途中から鋭角なカーブを描いている。50日後の累積判明数はN501Y株は322だったのに対し、L452R株は1,081だった。このようにN501Y株と比較するとL452R株は3倍もの急激なスピードで拡がり、既存株から置き換わっていった。
日付にするとちょうど栃木県内の新規陽性者が連日180例を超えた頃であり、その翌週には連日200例を超え新規陽性者数のピークを迎えた。このことから第5波はL452R株への急速な置き換わりによって発生したと思われる。

次回の記事では、63日間における療養者の内訳および病床使用率、死亡者数について検証する。

※この記事内における各数値の引用元
栃木県ウェブサイト
・「栃木県における新型コロナウイルス感染症の発生状況および検査状況について」
https://www.pref.tochigi.lg.jp/e04/welfare/hoken-eisei/kansen/hp/coronakensahasseijyoukyou.html
・「警戒度に関する判断基準となる指標・早期探知のための指標の推移」
https://www.pref.tochigi.lg.jp/e04/handankizyunsuii.html
・「新型コロナウイルス感染症(変異株)の検査状況及び発生状況について」
https://www.pref.tochigi.lg.jp/e04/welfare/hoken-eisei/kansen/hp/henikabu.html
・「人口・面積」
https://www.pref.tochigi.lg.jp/c05/kensei/aramashi/sugata/jinkou-menseki.html
・「年齢別人口調査結果(市町別年齢別人口)」
https://www.pref.tochigi.lg.jp/c04/pref/toukei/toukei/popu2.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?