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機動戦士ガンダム 全話レビュー第34話「宿命の出会い」


あらすじ

 コンスコンの襲撃で浮きドックでの修理を受けられず、やむなく<サイド6>に戻ったホワイトベース。アムロは再び父に会うためにバギーを走らせていた。途中雨宿りのために駆け込んだコテージで彼は、老いた白鳥を見つめる不思議な少女に出会う。その頃港には、ジオンの戦艦ザンジバルが入港していた。あのシャアがやって来たのだ。そして初めてアムロは生身のシャアと偶然出会う。その横には、あの少女ララァがいた‥‥。

脚本/星山博之 演出/藤原良二 絵コンテ/    作画監督/

コメント

 敵と味方とが戦場を離れて出会う場所、それが中立地帯である。地球上では中央アジアの中立地帯を通過した際、ホワイトベースを脱走したアムロが、ランバ・ラルと出会い言葉を交わした。「僕は、あの人に、勝ちたい」と、アムロの心の中に強い感情を呼び起こさせた男である。
 あのとき、アムロは自分が一番ガンダムを上手く使える、と自惚れつつも、周囲からの信頼もなくホワイトベースの中で孤立していた。その彼が、戦いの中で出会った精神的な「父」ともいえる男を乗り越えて、再び敵と交わる中立コロニーで、今度は誰と出会うのか。
 その一人が、身体的な父であったテム・レイだったことは、象徴的である。敵ながら自分の力と才能とを認め、部隊長として周囲の信頼を集める姿を見せてくれたランバ・ラルとは、あまりにも対照的だったからである。アムロの父テム・レイにとって、アムロの活躍は自分が開発したモビルスーツ、ガンダムの性能によるのだり、自らの成し遂げた成果の承認にすぎなかったからだ。

 それをひしひしと感じつつも、もう一度、父のもとを訪れずにはいられないアムロ。だが、その行き帰りで、彼は宿命的な出会いをするのである。

出港までの時間、アムロは大事な用事で出掛けているという。
雨の中バギーを走らせるアムロ。
見つけたコテージの軒先で雨宿りをしていると‥‥

 バギーで出かけたアムロだが、途中で雨に降られたため、途中にあった一軒家の軒先で雨が止むのを待つことにする。そのコテージの軒先からは、湖が見えた。ちょうど白鳥が飛び立とうとしているところだった。
 そのときアムロは、テラスに腰掛けて同じ白鳥を見ている少女に気づく。白鳥は高く飛び立つことができず、力尽きて湖面に落ちた。
 アムロは、その少女に近づいた。

ごめん、別に脅かすつもりじゃなかった‥‥
  あの鳥のこと、好きだったのかい?
美しいものが嫌いな人がいるのかしら。
  それが年老いて死んでいくのを見るのは、悲しいことじゃなくて?
そりゃそうです。そうだけど、僕の聞きたいことは‥‥
あ、止んだわ、‥‥うふ、きれいな目をしているのね


 少女がアムロの問いかけに答える前に、まるで心の中からわいてくるかのように、「美しいものが嫌いな人がいて?」と、エコーのかかった声が響く様子が印象的である。

力尽きようとしている白鳥を見ていると、
同じ白鳥を見ている少女に気づいたアムロ。
アムロの問いに、少女は「美しいものが嫌いな
人がいるのかしら?」と謎めいた答えをする。

 それ以上に驚くのが、この謎の少女のキャラクターデザインである。本作は「リアリティ」を追求したドラマであり、キャラクターデザインにも、その意識が反映されていた。しかし、彼女は例外である。近未来、スペースコロニーという舞台を忘れさせるかのようなオリエンタルなファッションに、瞳孔の描かれない大きな目。まるでこの世界のどこにも属していない、夢の中で出会った存在のようである。そんな彼女が発する言葉もまた、不思議なニュアンスに満ちている。

美しいものが嫌いな人がいるのかしら。
それが年老いて死んでいくのを見るのは、悲しいことじゃなくて?


 直接的には、年老いて飛び立てなくなった白鳥にことを言っているのだが、とてもそれだけとは思えない。美しいと思っていた家族愛が幻想にすぎず、心の中で死んでいくアムロの悲しみを、彼女はまるで見通しているかのようだ。そして彼女は、謎めいた雰囲気を残したまま、走り去っていく。この世に起こっていることとはまるで無縁で、何も知らない無垢な魂を感じさせながら。

 だが、無垢と感じたものがそうではなかったのか、いや、むしろ無垢であるこそなのか、彼女はのちに、このときの印象とは真逆の一面を、私たちに見せてくれることになる。

 アムロの帰りを待つホワイトベースだが、停泊する宇宙港のすぐ隣に、シャアのザンジバルが入港してきて、ブリッジは騒然となる。シャアはコンスコン隊を援護するためではなく、何か別の目的があってここに寄港したようである。「ゆるせない、リュウさんを殺した敵が目の前にいるんですよ」と憤るハヤトの様子に、ブライトは乗組員の外出を禁止した。

<サイド6>に寄港するシャア。副官のマリガンはここに何があるのかと疑う。
シャアの動きに切歯扼腕するコンスコン。
ザンジバルがホワイトベースの隣に入ってきて、乗組員らは騒然となる。

 アムロは再び父のいるジャンク屋を訪れるが、そこで見たのは昨日と同じ、壊れてしまった父の姿だった。アムロが父にしようとした大事な話は何だったのかはわからないが、事情を話して父をホワイトベースへ連れていこうとしたのではなかっただろうか。もともと、父も乗っているはずの船だったのだ。だが、自分のメカでガンダムが大活躍したと信じて疑わない父にかける言葉もなく、結局何も言わずに立ち去ることになる。

自分のメカの性能がどうだったかアムロに聞く父。
アムロの話を聞く様子もなく父はますます仕事にのめり込む。
何も言わずに立ち去りバギーを走らせるアムロ。

 その帰り道、急いで船に戻ろうと近道をしたアムロは、ぬかるみでバギーをスタックさせてしまう。そこに通りがかった車に助けを求めるが、降りてきたのは、なんと、あの「赤い彗星」シャア・アズナブルだったのだ。
 驚きと緊張のあまり呆然と立ち尽くすアムロを尻目に、シャアは車から牽引ロープを取り出し、それをアムロのバギーに取り付けて、運転していたララァという少女にバギーを引かせる。敵とはいっても、普通かそれ以上に親切な奴である。先ほど雨宿りしたコテージで出会った少女がシャアと一緒にいることも、アムロを驚かせただろう。その様子があまりに幼く見えたのか、シャアはアムロに苦言を呈する。

轍に車輪を取られたアムロは、通りがかりの車に助けを求める。
降りてきたのはシャアだった。呆然とするアムロを
横目に牽引ロープを取り付ける。
その車にはあの少女が同乗していた。

君は、年はいくつだ?
16歳です
そうか、若いな。目の前に敵の兵士をおいて固くなるのはわかるが、
  せめて礼ぐらいは言ってほしいものだな
ありがとうございました、これでぼくは

驚きのあまり固まったまま動かないアムロ、
そんなアムロにシャアは苦言を呈するが‥‥

 こうしてアムロは、バギーが救出されると、逃げるようにその場を立ち去った。

どうしたんだ? あの少年。
大佐の名前を知っているからでしょ、赤い彗星のシャアって。
  おびえていたんですよ、きっと。


 アムロが去ったあとの二人の会話だが、アムロはシャアに怯えていたのだろうか、地球の中立地帯でランバ・ラルに出会ったときのふてぶてしい態度を思い出せば、相手がジオンの軍人だからといって、怯えたり言葉を失ったりすることは考えられない。そうではなく、彼が名乗る前からシャアだと分かった自分に驚いていたのではないだろうか。

カムランの申し出を固辞するミライ。
その様子に思わず手が出たスレッガー。
苦笑いのスレッガーを見るミライの表情は‥‥?

 物語は、ブリッジを再訪したカムラン・ブルームとミライがすったもんだを繰り広げた挙句、カムランが自家用機で盾となってホワイトベースを<サイド6>領空を出るところまで見送る、ということで合意するという展開を見せる。前日のミライとのやりとりで自らを顧みたカムランが、ようやく自分自身の力で彼女のためにできることを、見出したのである。「君がこの船を降りないというなら、せめて僕の好意を受けてほしい」というわけだが、彼女にとっては「余計なこと」でしかない。好意であれ何であれ、軍人となったミライを自分が守ってやる、というのは、彼女のプライドを傷つけるのだ。
 そこに割って入ったスレッガーがミライを平手打ちしてカムランの肩を持つさまは「昭和だな」と時代錯誤に感じてしまうが、これで一転スレッガーに心惹かれてしまうミライもどうかしていると思う(※個人の感想です)。ここでは、いつもは指揮官風を吹かしているブライトが何も言えずにいるところに注目しておきたい。こうした男女関係をめぐる場面から、そのキャラの別の一面が見えてくるのが、また面白いのである。

カムランの先導で<サイド6>領空の境界線まで進むホワイトベース。
繰り広げられる戦闘をテレビ局が中継している。
アムロはその戦いで「動きが見える」ほどの進化を見せる。

 こうして、カムランの船に見送られながら<サイド6>領空を出ていくホワイトベースと、シャアに舐められてたまるか、と意気上がるコンスコン隊との間で、再び戦端が開かれる。そしてアムロは、自分が敵の動きを読めるようになっていることに、気づくのである。

 この時の戦闘は、本作の中で唯一、第三者の目で「観戦された」戦闘となった。そのときの一言から、アムロが出会ったララァという少女について、掘り下げてみようと思う。


この一言! 白いモビルスーツが勝つわ

 アムロが、雨宿りのために立ち寄ったコテージで出会った、不思議な少女。ララァ・スンはまるでこの世界のどこにも属していない、夢の中で出会った存在のようである、と先に書いた。年老いて死んでゆく白鳥を目で追い、言葉を交わしたその時間は、日々戦争という名の殺し合いに身を投じざるを得なくなった少年が得た、ひとときの静寂、現実を忘れさせる時間だったにちがいない。

 しかし、父の家からの帰り道に再び出会ったとき、アムロは現実に引き戻される。あの少女、ララァがシャアとともにいたのだから。これは何を意味するのか、彼女もまたジオン側の人間、ということである。わざわざ<サイド6>にシャアが寄った目的は、どうも彼女にあるように思われるからだ。

 しかし、<サイド6>領空を出た直後に始まった、ホワイトベースとコンスコン隊との戦闘が、<サイド6>のテレビ局により中継されるに及んで、彼女の別の一面が顕になる。シャアと二人、ソファのある私的な空間と思われる部屋で、そのテレビ中継を見ていたときのことだ。

よく見ておくのだな。実戦というのはドラマのように格好のよいものではない。

  というシャアの言葉からは、彼女もまた、いずれ実戦に出ていくようになるという予兆が感じられる。その中継を身じろぎもせず見ていたララァは、こういう。

白いモビルスーツが勝つわ

 そして、ガンダムは映っていないぞ、というシャアに、

わかるわ。そのために大佐は私のような女を拾ってくださったんでしょ

 と、彼女のその不思議な予知能力めいたものを、シャアが見込んで自軍に招き入れたことを、明かしているのだ。

白いモビルスーツが勝つわ、と予知するララァ。
「ララァは賢いな」と言われて、この表情。

 そして、アムロのガンダムが、ついにコンスコンの乗るチベの心臓部を探り当て、ビームサーベルでトドメを刺すのを確認すると、ソファから立ち上がってうれしげに手を広げ、

ね、大佐♪

 と、自分の思った通りの結果になったことを、喜ぶ様子を見せる。このときの彼女の声音や仕草、表情には、アムロと出会ったときとは打って変わって、生々しいほどの媚びを感じる。そう言うと、言い過ぎだろうか。だがその無邪気な振る舞いには、確かにシャアへの好意以上のものが表現されているのだ。

ガンダムがジオン軍を撃退し、予知が当たったことを喜ぶララァ。
アムロの父もまた、自分のメカで性能がアップした
(と思い込んでいる)ガンダムの勝利に狂喜乱舞した。
遠ざかる<サイド6>を見ながら涙するアムロ。

 そして、そのことは我々に如実に物語る。この女、ララァはもちろん中立ではないし、連邦側でもなく、ジオン側ですらない。ただひたすらに、シャアという一人の男の側につく女なのだと。
 それは、あくまでミライという一人の女性への好意を示すため命懸けの行為をしようとするカムランを、余計なこととして退けようとしたミライの態度と、好対照をなしている。彼女は個人的な好意を戦いの場で利用することをよしとしなかった。では、シャアはどうなのか?
 それはこの先徐々に、明らかになっていくだろう。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
中立コロニー<サイド6>周辺空域
<戦闘記録>
■地球連邦軍:結局補給も修理も受けられなかったホワイトベースは<サイド6>を出港することに。カムラン・ブルームが自家用の船で先導する中、コンスコン隊が待ち受ける空域へ出てゆく。アムロは超人的な活躍でリックドム隊と旗艦チベを撃沈。次の戦場へ向かう。
■ジオン公国軍:<サイド6>を出てくるところを待ち構えるコンスコン隊。コンスコンはリックドムを発進させるが、あっという間にガンダムに撃墜され、僚艦のムサイも落とされる。シャアの見ている前での大敗に焦ったコンスコンは旗艦チベを木馬に特攻させようとするが、ガンダムのビームサーベルに弱点を突かれ、撃沈。


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