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アニメレビュー:「スーパーカブ」は女子高生の皮をかぶり切れなかったおじさんのアニメだった

 アニメ「スーパーカブ」が話題になっていて、アマゾンプライムで無料視聴できるというので、視聴してみた。
 全話レビューは、小林昭人さんによるものが本サイトにアップされているのでそちらを見ていただくとして、私の感じたところを、少し書き留めておきたい。

 私が20代だったころ「おやじギャル」という言葉が流行語になった。アフター5は居酒屋、休日はゴルフか競馬、駅のホームでドリンク剤を飲む、といった中年会社員のごとき行動をとる会社勤めの女性のことを表すもので、「おじさん」がするものとされていた趣味の世界に、若い女性(といっても20代)が踏み込んでいくというのは社会現象にもなっていた。昭和から平成にかけての時代のことである。

 平成から令和の時代はどうだろうか。もはや趣味の世界には老若男女が入り乱れ、そうしたボーダーはないに等しく見える。そんな中、漫画やアニメの世界では、女子高校生が、それまではどちらかというと「男」のするもの、と思われていたバンド活動だったり、キャンプや登山などの世界に踏み込み、熱中しつつ成長していくという物語が量産されるようになっているようだ。アニメ「スーパーカブ」も、そうしたジャンルの1作品ということができるだろう。

 私自身はそうした「女子高生もの」作品にはまったく詳しくないが、並行して見始めた「ゆるキャン△」と比較するまでもなく、「スーパーカブ」に言えることは、主人公の小熊にしても、その友人の礼子にしても、一応女子高生という設定だが、その中身はまったくただの「おじさん」で、かつて流行った「おやじギャル」が逆転現象を起こして、「ギャルおやじ」が出現するストーリーになってしまっていることである。

 その理由についてはいろいろあるが、ストーリー展開上から指摘するとするならば、女子高生がバイクに乗るために超えなければならないハードル的な課題を、ことごとく避けてしまっていることだろう。例えば親がいれば、なぜバイクに乗りたいかを説得し、資金援助をしてもらわなければならない。免許の取得にも時間とお金がかかる。そもそも通学にバイクを使っていいかという問題もある。それに、小熊は、やりたいこともお金も夢も「なにもない」子という設定だが、やはりバイクに乗るなら「それによって何をなしとげたいか」ということも必要になってくる。

 そうしたことが、ストーリー展開の中ですっぽりと抜け落ちているために、彼女らが、単に女子高生の皮をかぶった「おじさん」にしか見えなくなくなってきてしまうのだ。

 そのことは、さらに別の問題を生む。そうはいっても終盤までは、バイクあるある的なお話をそれなりに楽しく視聴していたし、親しくなった同級生の椎ちゃんも、彼女らに影響されてバイクに乗ることを決意するのだろうとは思っていたが、11話で展開されたその内容があまりにも「恣意(しい)的」であったために、一気に気持ちが冷めてしまうとともに、ああ、やっぱり小熊は女子高生の皮をかぶったおじさん、さらに言うなら「作者」そのものなんだなと思ってしまった。

 11話では、ねこ道という崖の近道を日没後に通って崖から転落した椎ちゃんが小熊に助けを求め、小熊が彼女を救出してアパートに泊まらせるという話である。ここで、結果的に椎ちゃんの「愛車」であった高級自転車アレックス・モールトンは衝撃で壊れ、二度と乗ることはできなくなる。こうして椎ちゃんは自由に行動する足を奪われ、小熊に泣きすがった末、カブの荷台に乗せられて九州までの地獄のようなロングツーリングを経験させられることになるのだ。

 結局この物語で描かれたのは、第1話で坂道をあえぎながらママチャリで上る小熊をゆうゆうとアレックス・モールトンで追い抜いていった椎ちゃんを、その愛車から引きずりおろすことでカブの優位性(?)を小熊なりに示す、ということでしかなく、この椎ちゃんに対する扱いのあまりのぞんざいさのために、それまで積み重ねられてきたカブあるあるのエピソード(それも、女子高生が体験するものとしては不十分すぎるが)が吹き飛んでしまった。

 アニメ作品としてみれば、そこに描かれる風景の美しさはそれなりに評価できるものがある。しかし、私たちは、ただ風景の美しさを楽しむだけのためにアニメを見るのではない。そこに描かれるキャラクターを追いかけ、彼らが描き出す物語を見るのである。そこに見るべき価値あるものがあったかどうか、という戸惑いだけがあとに残る作品だった。

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