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コラム 地球圏の位置関係

はじめに

 Another tale of Z(以下ATZ)はオリジナルの「機動戦士ガンダム(79)」とも続編とも違うコロニーの位置関係を採用しています。それらについて説明しましょう。

1.物語の基礎、ラグランジュ点

 ラグランジュ点は18世紀にフランスの数学者ルイ・ラグランジュが提唱した二つの天体における重力の均衡点のことで、スペースコロニーの設置場所としてこれを創案したアメリカのオニール博士によって知られるようになりました。知られているラグランジュポイントは5つあり、それぞれL1~L5と呼ばれています。

ラグランジュ点

 この点に置かれた地球と月の二つの天体に対し質量が十分に小さい物体は、二天体の重力の均衡から見かけ上同じ位置を維持することが知られています(三体問題)。同じような関係は太陽と地球、他の天体の間にもあります。太陽と木星のL4、5点にある小惑星帯をトロヤ群(広義)、L3点にあるものをヒルダ群と言い、恒星太陽と巨大惑星木星の影響で多くの天体を引き寄せ、木星のラグランジュ点では数多くの小惑星が発見されています。トロヤ群の小惑星ヘクトルは1.4京トンの小惑星です。

2.「機動戦士ガンダム(以下ファースト)」のコロニー配置

ファーストガンダムのコロニー配置

 ガンダムではスペースコロニーは各ラグランジュ点を巡る軌道に配置されています。ラグランジュ点の番号とコロニーの一群「サイド」の番号は一致しておらず、L5にはサイド1が、L4にはサイド6があります。建造順という話ですが、あまり確かな根拠のある命名ではないようです。コロニーは数百基ありましたが、ジオン軍の攻撃で大半は破壊されたことになっています。この破壊行為で45億人が死亡しました。
 また、直径数キロ、数十キロ規模の小惑星が小惑星帯から運ばれ、要塞として配置されています。ルナツー要塞の出自は分かっており、小惑星帯にある直径320キロの小惑星ジュノーがオリジンです。この小惑星の重さは2.9京トンありますが、地球や月はその千倍、万倍も重いので、どうやって運んだかは置くとして、ラグランジュ三体問題で位置固定できるわけです。ほか、ソロモン要塞、ア・バオア・ク―要塞があります。

3.Zガンダム以降続編のコロニー配置

Zガンダムのコロニー配置

 ファーストの後続作の割にはいいかげんと思えるのがZガンダム以降の続編のコロニー配置、なぜかファーストとは位置関係が変わっており、サイド6は4に、サイド4は6に、サイド5は4に変わってしまっています。テキサスコロニーはファーストではサイド5にありましたが、続編ではサイド4または8にあります。なお、サイド8はOVAでの新サイド4の呼称です。
 あと、最終決戦ということでファーストの旧要塞(ルナツー、ソロモン、ア・バオア・クー)がすべてサイド7に集められ、「ゼダンの門」とされましたが、どうやって運んだかは置くとして、これらは宇宙から来たアクシズ要塞に軒並み破壊されます。また、コロニーレーザーは戦艦みたいに自走できることになっています。Zガンダムの世界ではコロニーや小惑星は簡単に移動したり破壊したりできるようです。

4.ATZのコロニー配置

 ファーストや続編のサイドの設定に確たる根拠のないこと。作品でも頻繁に番号が変わり、制作者に重要な設定として意識されていないことを踏まえ、本作ではファーストのストーリーの流れを基本に一部のコロニーの配置を変更することにしました。

ATZのコロニー配置

①サイド6の位置変更

 最も重要な変更として、まずサイド6はL4からL1に移動することにしました。L1ポイントは月面探査の通過点で、月を探査する探査機は全てこのポイントを通過します。L1からL2に回り込んで月周回軌道に入ることは宇宙探査の定石です。通信もこのポイントを経由することが多く、L1は5つのポイントの中で最も重要なポイントです。また、地球・月からの距離も最短です。
 ファーストでのサイド6を見ると、ほとんどが破壊されたコロニー群の中で唯一生き残り、中立を堅持して地球連邦、ジオン公国双方の間でしたたかに立ち回っている様子が伺えます。富野喜幸氏の小説ですと「ジオンの傀儡のランク政権」ということですが、それならばジオン軍と一緒に地球連邦と戦えば良いはずです。両勢力の戦場になった他のサイドと比べ、何らかの地理的優位性、外交的優位性があったはずです。本作では最も重要なL点であるL1にあるサイドとしています。

国民皆兵制度を取り、独自の防衛体系を持つサイド6の艦艇 

 これはファーストの話の流れを説明するにも都合が良く、ジオン軍の地球侵攻作戦がなぜ途中で膠着状態になり頓挫したのかとか、反攻する連邦軍の進路が最短距離のL1点を避けるようにL5(ソロモン)・L3(サイド3)と回り込んでいる説明にもなります。L1を押さえているサイド6の存在により、地球までの補給路が長くなったジオン軍はルナ・ツーから発進する連邦軍の遊撃隊に苦しめられたはずです。また、地球と月の間に存在するので、設定にあったマスドライバー作戦も使えず、むしろ劇中描写に忠実なものになっています。ファーストの描写を踏まえても、サイド6はこの位置しかない。
 本作ではジオン軍は一度サイド6侵攻を試みたことになっています。ですが独自の防衛システムと国民皆兵制度を持つサイド6防衛隊がこれを撃退し、グワジン級戦艦も含む多数の損害を受けたことから、以降は同地への侵攻を諦めたことになっています。

②サイド5をL5に移動

実用主義色の強いソロモン共和国(サイド5)の艦船

 主人公らのいるサイドでこれも重要なサイド5はL1にサイド6が来たことによりL5点に移動しています。元々この位置はL4と並びスペースコロニーの最有力候補地で、数千基規模の多数のコロニーが存在することになっています。相対するサイドはありませんが、それを補って余りあるコロニーが同所に存在します。
 サイド5の移動によりテキサス・コロニーも同所に移動し、ソロモン要塞はサイド1の残骸宙域ではなく、サイド5所在になりました。コロニーの数が多いため、共和国(旧同盟)ばかりでなく、独立国やジオンなど諸勢力の飛び地もあります。モーゲルシュタットはサイド5のジオン公国コロニーで、ジオンスドルフは元はサイド3にあったコロニーですが、0083年の「星の屑作戦」の失敗によりサイド5に流れ着いたコロニーです。

③サイド4をL4に移動、サイド1をL3に移動

独自技術と先端装備にこだわりのある、ユニオン(サイド4)艦

 サイド4はL4に移動しました。ファーストでもデブリしかありませんでしたので問題はなく、本作では800基ほどのコロニーがありますが、ユニオンという少しユニークな第三勢力の領土になっています。
 L3に移動したサイド1は大要塞ルナツーがあることから、近くにコロニー群はあるということから、まとまった数のコロニーのあるサイドの中では唯一地球連邦が領有するサイドになっています。これもデブリ帯でしたので問題はないと思います。

④移動しなかったサイド(サイド2,3,7)

 サイド3がジオン公国というのは本作でも変わりません。サイド2はこれもデブリ帯でしたが、本作では第三部に登場するガイアという国の故地としています。場所的にL5と相対するため、この国は大きく、大戦で分裂して内戦が続いていることになっています。サイド2の紛争はティターンズとエウーゴ、木星や土星での戦い以上に本作に影響を及ぼすものになります。
 サイド7はファースト同様閑散としたサイドで、コロニーはグリプス基地とあと数基しかありませんが、建造年代は最も新しいコロニーです。概ね200~300歳の他のコロニーに比べ、宇宙世紀になって地球連邦が建造したサイドということで、ここのコロニーは他とは少し異なる構造になっています。作中で唯一の地球連邦建設サイドです。

 5.戦後の国際秩序

①地球連邦制式艦隊(レギュラーズ)

 ファーストの戦いでは痛み分けとはいえ、地球連邦が勝者、ジオン公国が敗者ということになりました。ジオンに勝利した地球連邦は解放した諸サイドを個々独立させ、親連邦の国々としてジオンを包囲すると同時に、各ラグランジュ点に駐留艦隊を配置してジオン軍を牽制しています。月に根拠地を持つ第8艦隊が最前線ですが、後衛として第3、第5の各艦隊が控えており、第2艦隊は訓練艦隊的な色彩の強い艦隊です。

戦後秩序の守護神、地球連邦制式艦隊(第三艦隊)

 各艦隊の艦艇数は概ね100隻前後で、ほとんどの国の総艦艇数を凌ぐ上に、大型戦艦や空母など他国が持たない艦種も多数揃えています。第8艦隊1艦隊でほぼジオン艦隊全艦に匹敵する戦闘力を持ちます。第5艦隊が最も規模が大きく、第3艦隊の規模は4艦隊中最小になっています。さらに決戦兵力として第1艦隊が地球に控えています。
 他の艦隊と異なる制式艦隊の特徴として、親連邦国を独立させた際に同時に締結した条約による警察権があり、当事国の承認が必要ですが、ジオン公国を含む諸国の領海で犯罪捜査等のため船舶を臨検捜索でき、治安維持のため介入できることは連邦艦隊の中でもこの艦隊にしか付与されていない特権です。そのため、他の艦隊と比べ政治的見識を持つ、あるいは政治家としてのセンスに優れた指揮官が配されることも、この艦隊を他艦隊と比較して複雑な、異彩を放つものにしています。

②コロニー国家の現状

 ジオン公国は大戦で多額の賠償金を課せられたこと、また、戦後の内紛で国政監視のため連邦の駐留艦隊が駐留したこと、総帥職を廃止するなど統治機構への介入を許したことがあり、ザビ独裁体制は大幅にマイルドなものになっています。コロニー国家初の憲法が制定され、ミネバを元首とする立憲君主制に転換しています。体制は以前とは質的に異なるものですが、親連邦諸国と強力な駐留艦隊に包囲されたジオンは外惑星開発に力を入れます。豊富な惑星資源をバックに平和路線に転換したジオンによる親連邦諸国の切り崩しは連邦の急進派にとってかなり目障りなものです。

閉塞から外惑星に活路を見出したジオン公国(木星艦隊)

 サイド2は戦前はガイア自治共和国があり、ジオン以上の強盛を誇っていましたが、大戦で崩壊し、以降は内戦状態にあります。30国以上の独立国や勢力が乱立しており、連邦も秩序構築を試みましたが失敗し、このサイドは20年以上も内戦状態を続けています。
 地球自体も地球連邦は連邦制国家で、邦内には80国以上の以前の主権国家を内包していることから、宇宙政策一つを取っても連邦内部で様々な意見の相違があります。ティターンズとエウーゴの対立も元を糺せば連邦内部の格差問題や南北問題に行き着きます。
 大戦から20年が経過し、連邦を中心とした国際秩序にも綻びが見られるようになっています。規模は大きいものの鈍重な制式艦隊に代わり、ティターンズやエウーゴなど柔軟性に富んだ部隊が活躍するようになり、また、連邦に庇護された各サイド諸国家にも自立の動きがあります。当面の敵であったジオン公国の体制の変化や、連邦内部での急進派と穏健派の争いがあり、戦後に構築されたジオン封じ込めを前提とした世界秩序は古臭いものとして各々の市民には見えるようになっています。こういう時代の中、新しい秩序への模索が本作の時代の風景として作品で描かれることになります。

補記 ジオン公国の内紛
 ファーストのラストでは地球連邦はジオン共和国との間で終戦協定を結んだことになっていますが、ギレンが死に、要塞でアムロとシャアがチャンバラをやっている間に外交使節団を仕立てて終戦条件を交渉する時間があったとはとても思えません。日本の場合もサンフランシスコ平和条約は終戦から6年後です。これはリーダー(連邦:レビル将軍、ジオン:ザビ一門)を失った双方の次席指揮官が交わした停戦協定と解したほうが良く、正式な条約の調印までには数年の間があり、その間にデギン公王の遺言でしかなかった共和制はシャアたちにより倒され、新たに新ザビ体制が発足し、一連の事情を監視していた地球連邦の協賛のもとで公王制を維持したというのが本作の考えです。これが第一次争乱。
 第二次争乱は連邦が引き揚げた後、共和制を倒した当の本人たちの間にあったものです。旧ザビ派はこの争乱でパージされ、一部が木星に逃れて勢力を保つことになります。戦後は宰相の座にあったマハラジャの統治が苛烈さを特徴としたのはこの旧勢力に対する警戒があったためです。この争乱は90年代まで続きましたが、本作の前史として作品の時代には止揚しています。賠償金もこの時期には完済しています。
 巨額の賠償金と二つの争乱は戦後ジオンの発展にも暗い影を投げかけています。唯一の活路として外惑星開拓を志向したジオンですが、社会経済は戦前の水準まで回復したものの、その後は停滞が続き、木星でもコロニー同盟など新興国との競争で優位を失っていきます。生き残りはしたものの、その後は多事多難というのが本作の描く戦後のジオン公国です。


 

 

 

 

 

 


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