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第30話「パシフィック崩壊」2 小林昭人

「それが政治パリティカというものだよ、ロナ次官。」
 その時、彼らの部屋のインターホンが鳴った。
「マイッツアー様、フォレスタル様、ロックス補佐官パモシュニクが参りました。お二方にお話があるとか。」
「通してくれ。」
 フォレスタルの指図で、統領府からやって来たサルラックの腹心が居間に通された。ジミー・ロックスと名乗った補佐官は一礼すると、彼らに釈放ヴプスカトと現職復帰を言い渡した。
「マイッツアー・ロナ氏は従前通り科学省次官を、フォレスタル議員は議長として議会ドゥーマをまとめていただきます。」
「ここから出られるのだな。」
 マイッツアーが補佐官に念押しした。
「もちろんです、ですが市街地では人民主義者がテロを行っています。十分ご注意なされるよう。後に新統領からお二方に今後の方針が説明される予定です。」
「ありがたい話だな、娑婆シャバに出られる。」
 背広の上衣を持ち、フォレスタルがソファから立ち上がった。マイッツアーもコートを羽織り、部屋を出る支度をする。
 それからしばらく後、平服姿の彼らはホテルの玄関から屋外に出た。市街戦があったらしく、道路の端々に燃え滓や小銃の薬莢が転がっている。暴動で荒らされ、シャッターが破られた商店の残骸を彼らは見た。
「このままでは収まらん。マイッツアー、覚悟しておくことだ。」
 市街地の荒廃を見たフォレスタルが言った。
「バートンが死ねば沈静化するのか。」
 マイッツアーの言葉に中道党セントリスト党首は首を振った。
軍事指揮官コマンディールのトワイニング、後援者ストロニクのメラニーがいる。バートンが死ぬのは個人的には嬉しいが、殉教者マーターを一人作るだけのことだ。サルラックにガイアをまとめる力量はない。」
 こんなはずではなかった、と、マイッツアーは市街戦で焼け、あちこちが煤けた市街地の建物を見た。グム・デパートが全焼し、巨大なデパートは焼けただれた荒涼たる廃墟を晒している。こんなはずではなかったはずだ。彼はビルの残骸から振り返ると、裁判所コルトの方角に足を向けた。
「おい、マイッツアー、どこに行く。」
裁判所コルトだ、バートンの裁きを見聞しに行く。」
 裁判所に向かって歩き出したマイッツアーと後を追うフォレスタルを、近くでゴミ拾いをしていた若者が呼び止めた。
「おっさんたち、そんな所に行っても何もないよ。」
 高価な背広を着た彼らを呼び止めたみすぼらしい身なりの青年に、彼らは怪訝そうな視線を向けた。青年は彼らに週刊ヒュンダイの記事を見せ、バートン裁判について彼らに教えた。ガイア時代からアルカスルの週刊誌は新聞では書かれない真実を伝えているメディアとして定評がある。
「場所は非公開チャストニィだ。すでに処刑イスポルニーニェされてしまっているかもしれない。とにかく裁判所は施錠されていて、何もやっていない。判事スディたちが今はどこにいるのか、見当もつかないや。」
 憲章違反じゃないのかと、青年の言葉を聞いたマイッツアーはフォレスタルの顔を睨んだ。裁判の記事を読んだフォレスタルも呆れ顔をする。
「処刑されれば、新聞ガゼータかテレビで発表があると思うよ。」
 その言葉を聞いた彼らは互いにしかめ面をした。
「非常にまずいことになっている。マイッツアー、私も事情を調べる。貴君もバートン派の動きを調べ、何かあったら知らせてくれ。」
「承知した。」
 それから彼らは互いに連絡を取り合うことを約束し、各々の居所に戻った。フォレスタルの懸念は当たっていた。クーデターで政権を奪取したサルラックが彼の最大の敵、人民主義者コムニストバートンの粛清を目的に開廷した裁判は、思わぬ展開を見せることになる。

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「ATZ」vol.5は、第27話~32話までの6話12本を収録。

優れた科学技術を誇り、サイド3と並ぶ強大なコロニー国家として繁栄したサイド2「ガイア」。しかし一年戦争でジオン公国の侵攻を受けると統一国家…

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