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機動戦士ガンダム 全話レビュー第19話「ランバ・ラル特攻!」

あらすじ

 アムロが叩いた基地は、多くの採掘基地のひとつにすぎなかった。アムロは、そのままWBに戻らず、一人砂漠をさまよう。ソドンの街にたどりついた彼は、食事でもしようと店に入った。そこへ、ジオンのランバ・ラル隊がやってくる。ハモンに目を留められたことでランバ・ラルと言葉を交わしたアムロだったが、そのとき、アムロを探しに出ていたフラウ・ボウが捕まり、アムロはピンチに立たされる。

脚本/星山博之 演出/行田進 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和

コメント

 アムロのホワイトベース脱走から3話目、ジオンの鉱山を叩いてブライトらの鼻を明かしてやる、と息巻いていたアムロだったが、彼が壊滅へ追いやったのは多くの採掘基地の一つにすぎず、それを知ったことで、なおさらホワイトベースに戻れなくなってしまっていた。
 アムロのプライドは、ガンダムという最新兵器に深く紐付けられてしまっている。しかし冒頭、紺碧の空、熱気の立ち上る灼熱の砂漠を、彼はガンダムではなく自分の身一つで歩いている。そして、「ガンダムのパイロット」という立場を離れて孤独をさまようそのとき、彼は出会うのだ、彼の内側に、今までになかった感情を湧き起こさせる男に。そして19話は、すべての要素がその1点にのみ集約されてゆく物語なのである。

ガンダムを隠し、一人砂漠を放浪するアムロ。
天幕の老人から聞いた街で、彼はのどの渇きをいやすため入った
レストランに、ジオン軍の兵士たちが入ってくるのを見る。

 のどの渇きを覚えたアムロは、砂漠の中に見つけたテントの男に教えられ、ソドンの街へ行く。街といっても人影もなく、廃墟のような場所でここにも戦争の爪痕を見ることができる。
 さびれた店のカウンターで、アムロが干からびたパンに悪戦苦闘していると、店の前に巨大なトレーラーが停まり、ジオン兵が入ってきた。そこには場違いのような、美しい女がおり、アムロは思わずその姿に目が釘付けになる。さらに、隊長の「みんな、座れ座れ、何を食ってもいいぞ。作戦前の最後の食事だ」という言葉に、アムロは聞き耳をたてるのだが、店主が注文を取りにきたことをきっかけに、彼らの会話は予想外の方向へ広がってゆく。

「何もないのね。できる物を14人分ね」
「は、はい」
「一人多いぞ、ハモン」
「あの少年にも」

 店に入ってきたとき一瞬目が合ったその女、ハモンはわざと、一人前多く食事を注文し、その場の全員に「もう一人いる」ということに注目させる。彼女だけが、アムロの存在に気づいていたのだ。
 そして、「あの少年にも」というハモンに応じるランバ・ラルのこの言葉である。

「あんな子が欲しいのか?」

ハモンの言葉で、はじめてアムロの存在に気づくランバ・ラル。
ハモンのアムロを見る視線が艶かしい。

 それはあの少年、と呼ばれたアムロにハモンと自分とがどういう関係であるのかを伝えるとともに、自分にとっては子どものような、つまり自分の相手にはならないような存在だ、ということを諭しているようにも取れる。あるいは他の男に目を留めたハモンに、余裕たっぷりの口ぶりで釘を指しているのかもしれない。
 いずれにせよ、この何気ない一言で、居合わせた彼らの関係性が、この場に立ち上ってくるのである。

敵の士官に気に入られてしまうアムロ。

 恵んでもらう理由がありませんので、と食事を断るアムロに、ハモンは言う。「君のことをあたしが気に入ったからなんだけど、理由にならないかしら?」軍服でなく私服で、ガンダムさえどこかに隠してしまって素になった「少年」のアムロだが、その彼を「気に入った」と言い、距離をつめようとするハモンは、この素の少年に、素、だからこそ興味を感じたのかもしれない。こんな砂漠の中の何もない街で、よそから来たらしい少年が一人で食事をしている?

 ぼく、乞食じゃありませんから、と再度アムロが固辞すると、ランバ・ラルは豪快に笑い声をあげ、はっきり言う、気に入った、わしからも奢らせてもらうよ? と再び勧める、が、そこへ、アムロを探して街へバギーでやって来たフラウが見張りの兵に捕らえられ、アムロも連邦軍の人間であることがバレてしまう。しかし、ランバ・ラルは「離してやれ」と二人を解放し、即座にゼイガンにあとをつけさせるのだった。

「いい目をしているな」。アムロの羽織ったマントの前を開けたランバ・ラルは、
少年がその下で拳銃を構えているのを見て、「それにしてもいい度胸だ。ますます気に入ったよ。アムロとかいったな?」とその名を胸に刻んだ。

 ハモンとランバ・ラルの前では一端の大人のような態度を見せたアムロだったが、フラウ・ボゥと2人になると、途端に年相応の子どもっぽさを見せるところが微笑ましい。実の母とは幼少の頃に離れ離れとなり、地球での再会は永遠の別離を思わせるような苦々しいものとなった。アムロにとってはおそらく、母親以上に近しい家族のような存在、それがフラウなのだろう。しかし彼を探しに来たフラウの前で、終始アムロは不機嫌である。いまだホワイトベースに戻る気はなく、「どんどん私から離れて行っちゃうのね、アムロ」とついフラウはつぶやく。

アムロはフラウのバギーに同情するが、街から出ると、
フラウを尾行したゼイガンは、遺跡のある谷かげに停泊したホワイトベースを発見する。飛び降りてまた一人になってしまう。
フラウを尾行したゼイガンは、遺跡のある谷かげに
停泊したホワイトベースを発見する。
ミライは後方から襲ってきたザクをホワイトベースのエンジン噴射で吹き飛ばした。

 フラウのバギーを追っていたゼイガンが、谷間に潜むホワイトベースを発見したことを報告し、ランバ・ラルが出撃命令を出した頃、ホワイトベースでは、戻ってきたフラウからモビルスーツを積んだ大型トレーラーを見たことをブライトらは聞いていた。即座にミライはブライトに、作業は中止して迎撃体制をとった方がいい、と進言する。

 ホワイトベース、ランバ・ラル隊双方が臨戦体制に入るなか、一人寝そべり空を見上げるアムロだったが、その視界を2機のモビルスーツの影が過っていったとき、感情を拗らせた「少年」は「戦士」へと切り替わる。フラウ・ボゥがつけられたんだ、と気づいたアムロは砂中に埋めたガンダムを掘り出し、ホワイトベース救援に動き出す。グフに出てこられたら、ガンキャノンもガンタンクもいちころだ、と、アムロはわかっているのだ。彼にとっては、自分こそガンダムのパイロットにふさわしいと認めさせる、千載一遇のチャンスなのである。

 一方、ガンダム抜きでランバ・ラル隊を迎え撃つことになったホワイトベースだが、この状況でいち早く「アムロを戻す」決断をしたのはハヤトだった。リュウとともにガンタンクで出撃するも、ザクがガンタンクを惹きつける間にランバ・ラルのグフがホワイトベースに接近する、という策にはまり、キャタピラをやられて動けなくなってしまう。そのとき、上半身を強制排除し、コアファイターでリュウにアムロを呼びに行くよう頼む。自分は砲台になって、敵を食い止めるというのである。
 ガンダム抜きの状況で奮闘を見せたのはハヤトだけではなかった。ミライは、背後から近づいてきたザクを仕留めようと、「全速前進!」とホワイトベースのエンジン出力を一気にあげ、ホワイトベースに飛び乗ったグフを背面飛行で振り落とすなど、八面六臂の活躍を見せる。

 しかし待ち伏せしていたカイのガンキャノンは、グフに見つかりヒートロッドの攻撃を浴びせられる。そこへ駆けつけたアムロは、ヒートロッドを狙い撃ちしてガンキャノンを解放すると、この時のために取っておいたビームライフルでグフを狙うが、ランバ・ラルは避けようともせずにその攻撃を見切ってしまう。そのことにプライドを砕かれたアムロはビームサーベルを抜いてグフとの接近戦に挑み、相討ちの末両機のコクピットが損傷、戦っていた相手が誰だったのかを知ることになる。

グフと戦うため、ホワイトベースのもとに駆けつけたアムロは、
そこで再びランバ・ラルと言葉を交わすことになる。
一方のランバ・ラルはあの少年がガンダムのパイロットだったことに驚きを隠せなかった。

 これまでで最強、といってもいい敵、ランバ・ラルを破ったアムロだったが、その後味は苦いものになった。ガンダムを操る自分の強さをアピールできたはずだったが、待っていたのは独房入りという厳しい処罰だったのだ。
 「僕が、いちばん ガンダムをうまく使えるんだ」。ガンダムを取り上げられ、その言い分も聞いてもらえず悔し涙にくれるアムロ。だが、そんな彼を奮い立たせたのは他のだれでもない、あの男、ランバ・ラルの一言だった。


この一言! 「僕は、あの人に、勝ちたい」


あの人たちが、僕らの戦っている相手なんだろうか

 ソドンの街の食堂で出会ったジオンの一部隊を思い浮かべて、アムロはつぶやく。フラウと別れ、再び一人で砂漠の放浪に疲れ、寝そべっているときだった。その脳裏に浮かんでいたのは、隊長のランバ・ラルとハモンである。自分を「敵」と見なす相手と顔を合わせるのは初めてではない。しかし、彼らは圧倒的に「敵」であるはずだった。まもなく作戦行動を開始する、堂々たるジオンの正規軍なのだ。

 にもかかわらず、彼らはアムロにこんな言葉をかけた。

 「君のことをあたしが気に入ったからなんだけど、理由にならないかしら?」
 「いい目をしているな」


 ホワイトベースで必死に戦っているとき、誰もアムロにこんな好意的な言葉、自分を認めるような言葉をかけてくれる人はいなかった。それどころか、彼をガンダムから下ろそうと画策している。少し前、再会した母も、敵に銃口を向け戦ってきたアムロを受け入れようとはしなかった。だが、目の前に明らかに敵として存在しているはずの彼らは違った。アムロは、ガンダムを操縦できる戦闘要員としてではなく、ただ、そこにいる「素」の少年としての自分を肯定的に受け入れる人に、初めて出会ったのだ。その特異な能力を都合よく利用されてきた少年にとって、それは、ある意味衝撃的な出来事だったといえるだろう。
 だから「あの人たちが、僕らの戦っている相手なんだろうか」という、そのアムロのつぶやきには、そうであって欲しくはない、という思いが隠れているのかもしれない。

 しかし、視界を過ってホワイトベースのいる方向へ飛び去ってゆく敵を認めてアムロが戦場に呼び戻され、対峙することになったグフのパイロットは、まちがいなくあの男、ソドンの街で出会い、アムロを一人の男として認めた、あの男、ランバ・ラルだったのだ。
 以前にも対戦してても足も出なかった敵モビルスーツ・グフを仕留めるために、アムロは敵の陸戦艇ギャロップを足止めしているそのときも、ビームライフルの弾を惜しんで残しておく周到さを見せていた。グフに、ビームライフルの射撃をことごとく避けられると、どうせ当たらないんだ、と潔くビームライフルを捨てて自ら敵の懐に飛び込んでいくなど、その闘志には見違えるようなものがみなぎっている。
 そして、アムロはグフをついに打ち負かす。だが、グフのコクピットから辛くも脱出したランバ・ラルはこう言うのだ。

見事だな。
しかし小僧、
自分の力で勝ったのではないぞ。
そのモビルスーツの性能の
おかげだという事を忘れるな。

 独房に入れられたとき、リュウは言う。「なぜ俺が、おまえを呼びに行ったと思う?…うぬぼれるなよ。ガンダムさえ戻ってくればと思ったからだよ」


 アムロはそのとき、これまでずっと自分を支えていた「僕が一番ガンダムをうまく使えるんだ」という、たった一つのプライドを完膚なまでに砕かれてしまう。独房の扉に寄りかかって泣き崩れた彼の脳裏を過ぎったのも、「自分の力で勝ったのではないぞ。そのモビルスーツの性能のおかげだ」という言葉だった。
 そして、つぶやく。

 ・・・ぼ、僕は、僕はあの人に、勝ちたい

 と。

 よくよく聞くと、これは不思議な言葉である。なぜなら、ランバ・ラルは「自分の力で勝ったのではないぞ」と言ってはいるが、そのときアムロが「負け惜しみを」と言い返したことからもわかるように、結果的にランバ・ラルは破損した機体を捨てて脱出せざるを得なかったのだから、アムロはすでに、ランバ・ラルには勝っているのだ。モビルスーツの性能云々などということは、これまでの戦闘経験から、今さら言われなくても自覚しているのではなかろうか。なのに、アムロは「あの人に勝ちたい」と強く思った。なぜか。アムロはなぜ、ランバ・ラルに負けたと思っているのか。

 その胸中を物語るのが「あの人に」の一言ではないだろうか。彼はモビルスーツのパイロット、としてではなく、あのソドンの食堂で、部下に慕われ、パートナーとの信頼関係に結ばれ、そして敵であるかもしれない自分を「気に入った」「いい目をしているな」と受け入れるほどの人としての度量の大きさに、畏敬の念を抱いたのだ。だからこそ、「あの人に」勝ちたい、という言葉が出てきた。自分自身はどうか。仲間から必要とされず、その行動を「うぬぼれ」と取られ、自分がガンダムで駆けつけたからこそ敵を退けられたはずなのに、そのガンダムをさえ取り上げられ、独房に入れられている。たとえ一時の戦闘で勝ったとして、その人間性がとうてい及ばないことは明らかではないか。

 そのときアムロは初めて、自身の人間性を成長させる男、乗り越えるべき「父」なる存在を認識したのだ。

 ランバ・ラルはアムロに興味を示したハモンに「あんな子がほしいのか」とたずねるが、「子」という言葉は、アムロにとって彼が「父」的な存在になるということを、暗示したものだったのかもしれない。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
中央アジア カスピ海に近い砂漠地帯(現在のトルクメニスタン)
※ガンダムTV放映時はソ連領
<戦闘記録>
■地球連邦軍:アムロを捜索し帰還したフラウが追跡され、ランバ・ラル隊の攻撃を受けるがガンダムが復帰し、勝利。
■ジオン公国軍:ホワイトベースを発見したランバ・ラル隊がグフとザクで急襲するが、敗退。ランバ・ラルはグフから脱出して敗走する。

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