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第11話「逃避行」2 小林昭人

「エネルギー中和磁場は使えないですね。前回はこれでかなり防いだのですが、メガ粒子砲はともかく、レールガンは中和磁場では防げない。」
 前回のマトッシュ准将による攻撃ではティターンズはメガ粒子砲による攻撃を主体とした。サラミス艦の150㎜レールキャノンは連続射撃で15分もすれば撃ち尽くしてしまうが、機関が動いている限り、理論上無限の射撃が可能な荷電粒子チャージドビーム兵器、メガ粒子砲はレールガンよりも到達速度が速く、数万度の高温で装甲板を焼き切ってしまうことから、艦載兵器の決定版として一年戦争前のジオンで開発された。ムサイ級巡洋艦はメガ粒子砲の装備を前提に作られており、戦争の前半では自艦に十倍するマゼラン級戦艦をもこの粒子砲で沈めるという実績も残している。ルウムの大会戦はメガ粒子砲装備艦とそうでない連邦戦艦との差をまざまざと見せつけた戦いでもあった。
 しかし、大戦後半に連邦が対メガ粒子用のエネルギー中和シールドヴェガシステムを開発し、この兵器の威力は大いに減殺されるに至った。粒子イオンの質量の決定的な不足が、強力な磁場と荷電粒子によってビームを偏向させ拡散させるというこのシールドを破ることを困難にしたのである。大戦後はほとんどの戦艦が再びレールキャノンの装備に戻った。しかし、レールキャノンには弾数制限と砲身の寿命があり、また、辺境のタイタニアにはシールド装備の艦や施設はほとんどないことから、マトッシュは艦隊補給艦の随伴を不要とし、メガ粒子砲でタイタニアと戦った。
 これに対し、タイタニア警備隊はアルバータ・コロニー群にブレックスの指導で急遽据え付けたエネルギー中和磁場発生装置で対抗し、シールドは完全ではなかったが、ブレックスの戦術指導の巧妙さと併せ、ティターンズの攻撃をかなり減殺したのである。しかし、今回はこの手はもう使えない。
「と、なると、タイタニアの陥落フォールは予想よりもだいぶ早い。ティターンズ艦隊は五月初旬には攻撃を開始しているはずだが、これでは我々が五月末にタイタンに到着しても、その頃には戦いが終わっている。」
 近代的な大口径レールキャノンによる艦砲射撃。その攻撃の前にはシールドも、ただの民間施設でしかないタイタニアの採掘コロニー群も無力でしかない。破壊力もメガ粒子砲とレールキャノンの榴弾とではまるで異なる。ティターンズ艦隊には300㎜のそれが16門も装備されている。初期のバルセロナ級の主砲はメガ粒子砲との両用砲になっており、複雑な設計である。「それでも我々を迎撃するのに十分な物資を持っているわけだ。虎の穴ライオンズ デンに飛び込むようなものだぞ、これは、、」
 「レイキャビク」は「アレキサンドリア」と同じバルセロナ級の同型艦であるが、建造年次はより新しく、主砲もより大きい320㎜レールキャノンを搭載している。メガ粒子両用砲は同盟では採用されておらず、これは射撃速度も破壊力も「アレキサンドリア」より勝るが、同型艦二隻相手ではそれほど有利とも言いがたい。度重なる改装でエンジンも装甲もオリジナルのバルセロナ級より強化されているが、元々抗堪性の高い艦ではない。
「キーゼ博士、ガリバルディの改修状況は?」
 苦悶する幕僚らを置いて、マシュマーはキーゼに尋ねた。砲雷撃戦ファイアパワーに絶対的な有利が見込めない以上、モビルスーツの性能の差が重要になる。完成したガリバルディβの性能はハイザックより遙かに勝る。これなら全機揃えば数に勝る相手でも互角以上の戦闘が可能だ。
「GR―100への換装は順調に進んでいる。土星に到達する頃にはテストも終えているはずだ。が、厳しい戦いになるようだから、テストを前倒しして、できるだけ早く稼働可能なように努力はしよう。」
「ありがとうございます。」
 マシュマーはキーゼに礼を言った。
「保有物資にこれだけの差がある以上、我々は一回の戦闘でできるだけ多くの敵艦を破壊するか、戦闘不能ホル デ コムバットにしなくてはならない。第一目標は敵の特設宇宙母艦スペシャル キャリア「エクリプス」、第二目標はバルセロナ級だ。知っての通り、これは我々の「レイキャビク」の同型艦シスターズだ。改装されているから一対一ならこちらが有利だが、敵は二隻でこれも不利は免れない。で、どうするかだが、、」
 マシュマーらは作戦を検討し始めた。

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