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第31話「遠い記憶」1 小林昭人

 本作は2005年に小林昭人さんがホームページにて連載していた小説で、作者の許諾を得て、飛田カオルが本サイトに再掲するものです。

第31話 序 これからのエピソード

0098年3月2日
サイド5 ソロモン要塞 戦艦「スコルピオ」記念館

 0098年3月、ハマーンは同船したブルックス提督の案内で、ソロモン要塞の「スコルピオ」記念館を訪れた。一年戦争以来、この要塞を訪れたジオン人は僅かしかいない。かつて公王ミネバも住んでいたというこの要塞には、彼女も個人的な興味があった。
「奇妙な展示物ディスプレイですわね、分解した戦艦がそのまま記念館になっているなんて。」
 一年戦争で破壊された連邦のマゼラン級戦艦「スコルピオ」の巨大な砲塔が窓外に転がる記念館は異様な光景である。近くの説明には、「スコルピオ」の破壊はジオンのモビルアーマー「エルメス」に搭載されていた思考誘導兵器「サイコミュ」による初の戦果と記されており、乗組員や艦長ガント中将の遺品が展示されている。思考誘導兵器サイコ・ガイダンスは大戦中の連邦軍には概念すらなかった。
「スコルピオ事件は長いこと誤解されてきた。」
 ブルックスはそう呟くと、窓外に転がる「スコルピオ」の巨大な砲塔を見上げた。当時の連邦の最新鋭戦艦、科学技術の粋を結集して建造された戦艦がわずか一機のモビルアーマーの攻撃で撃破され、しかも、戦後知ったところでは、それを操縦していたのは、、
「ララァ・スン、ジオンのニュータイプですわね。」
 中央にかなりのスペースを割いて、巨大なララァの肖像画が展示されているのを見たハマーンは呟いた。ジオン軍の最高機密シュターツゲハイムニスを連邦の機関はよく調査している。ただ、ここはソロモン要塞、軍関係者以外の者が展示物を見る機会はほとんどない。
「ララァ・スンはソロモン戦の直後の戦いで戦死したということになっている。ただ、最近サイド6に墓があるという情報もあり、個人的にも興味を持っている。ジオン公国の今の公王陛下も興味を持っていることだろう、ここは前公王の生まれ故郷だからな。」
 ブルックスはハマーンの方をチラリと見た。二年前に十六歳で夭逝した前公王ミネバ・ラオ・ザビは、この要塞でデギン公王の王子、宇宙攻撃軍司令官ドズル・ザビ中将と妻ゼナの長女として生まれた。ソロモン陥落の際、ミネバはゼナの腕に抱かれて炎上するこの要塞を後にし、残った父ドズルは戦死した。ここには連邦とジオンの苦すぎる記憶がある。

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8,878字
「ATZ」vol.5は、第27話~32話までの6話12本を収録。

優れた科学技術を誇り、サイド3と並ぶ強大なコロニー国家として繁栄したサイド2「ガイア」。しかし一年戦争でジオン公国の侵攻を受けると統一国家…

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