見出し画像

アニメレビュー:「ゆるキャン△」はキャンプに無縁だった人たちに、その楽しさを教えてくれたアニメだった

 私の住むところには日本一の湖があり、その周囲はほぼ無料の公園になっている。休日になればテントを張ってバーベキューを楽しむ人でいっぱいになり、湖周道路を車で走ると、肉の焼けた匂いが車の中まで漂ってくるほどである。
 そんな場所に、2年ほど前から異変が起きていた。オフシーズンのはずの冬にも、ちらほらと湖岸でテントを張っている様子を見かけるようになったのだ。しかも、よく見る家族づれではなく、一人でキャンプをしているらしい。

 そうしたスタイルの火付け役になったアニメを、見てみることにした。2018年1月から3月にかけて放送されたアニメ「ゆるキャン△」である。

 主人公の志摩リンは山梨県の本栖高校に通う高校生。一人でするキャンプ「ソロキャン」を楽しみとしている。冬も近いある日、本栖湖畔でキャンプをしようと出かけてきたところ、トイレの前で眠りこけている少女と出会い、ひょんなことからソロで楽しむはずのキャンプの夜を一緒に過ごすことになる。その少女、各務原なでしこは転校生だった。
 この出来事をきっかけにキャンプに興味を持ったなでしこは、高校の野外活動サークルに加わり、活動をはじめる。そして、一人でいることを好むリンを、そのサークルに招き入れるのだった・・・

 と、ストーリーのあらましを書くと、まさに今のアニメの主流である「女子高生」+「日常」+「あまり女子高生がやっていない活動」の組み合わせという典型的なパターンであるが、文字通りの「ゆるい」展開でありながら、全12回を楽しく視聴することができた。
 その理由を考えてみると、まず何と言っても、「キャンプ」という非日常の描き方が魅力的だった、ということがあるのではないだろうか。

 そもそもキャンプ好きな人は別にして、キャンプにはあまり楽しいイメージがない、という人も多いだろう。学校で行く野外活動で体験すると、重い荷物運び、ご飯をおいしく炊くことが非常に困難な飯盒炊爨、薄いカレー、狭苦しいテント、無理やりなキャンプファイアー、つまらない芸をやらされる・・・など、苦行の連続という記憶しか残っていない。野外という開放的な場所にいながら個人の自由行動が許されない、というジレンマに苦しむだけの活動だったように思う(今思えば、それはどちらかといえば軍事行動の野営の演習みたいなものだ)。

 そういうイメージから遠く離れて、リンは一人で、好きな場所にテントを張り、火を起こして焚き火にあたりながら本を読む。自然の風景の中で過ごす、静寂の時間。家ではなく外で過ごすことの、本当の楽しみというのが、そこにあるように感じたというところが、とても大きい。そして、そうしたキャンプそのものの魅力を見せた、ということが、このシリーズの最大の功績といえるだろう。

 リンが巻き込まれていくことになる「野外活動サークル」の貧弱さもまた、その魅力を引き立てている。部員3人、細長い部室。お金がないのでこれしか買えなかった、という980円のテント。冬用シュラフが高くて買えなかったり、タープを張るポールがなかったり、というところをいろいろ工夫したりする、その高校生らしさもまた、楽しい。キャンプをはじめ、こうした趣味は道具を揃える趣味でもある。高価な道具を揃えてそれで満足する向きも多いだろう。しかし、楽しみの本質はそこではない。高校生が、バイト代でできるキャンプというところもツボだった。

 主人公ら自身、熟練者ではなくうんちくを語らないところも良かった。必要なハウツーは、ナレーションの大塚明夫氏の解説を挿入する形で紹介され、キャンプ初心者への配慮が見られた。全体として、押し付けがましさや、アイテムや知識をかさにきたマウンティング的なものが排除され、主人公たちとの間のフラットな関係の中で、彼らの経験を共有するような楽しみ方ができたことも大きい。

 ストーリーは、カレーめんに始まりカレーめんに終わる。その間に変わるリンとなでしこの心情もそれとなく伺え、ゆるいキャンプを楽しんだあとの、ほんのりとやさしい気分になれる作品となった。これを見て、ソロキャンを始める人が増えるのも、納得である。

この記事が参加している募集

アニメ感想文

最後までお読みくださり、ありがとうございます。 ぜひ、スキやシェアで応援いただければ幸いです。 よろしければ、サポートをお願いします。 いただいたサポートは、noteでの活動のために使わせていただきます。 よろしくお願いいたします。