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16夜 60年越の原発運転が可能になるという事

 2023年4月の衆参本会議において,GX=グリーントランスフォーメーション脱炭素電源法案が可決された.原子力基本法など5つの法律の改正案を束ねたもので,原発の運転期限を60年以上可能にする法律らしい.
 2011年3月11日に起こった東日本大震災では2万人以上の死者をだしたが、当初,震災による福島県全体の避難者数は最大で16万人以上に上り,現在でも帰宅困難な原発周辺地域を中心に2万人以上が避難生活を続けている.帰宅解除の措置が取られつつある現状でも,もう旧居住地域には戻らない住民も多数あると聞く.
 震災による原発事故当初,アメリカをはじめ多くの国が日本からの国外退避を決めて,実際に多くの外国人が日本から脱出していった.国内においても,放射能汚染による被害から免れるために,東日本地域から多くの方が西日本に逃れた.当時,首都圏の局所的な放射線量の増加福島県山間部の放射線量の増加などが報道されて大きな社会問題となった.
 当時の総理大臣は,国内の原発全基停止を決め,それによる電力不足の影響で,山手線各駅の構内など,照明を減らして薄暗い駅になったことはいまだ記憶に新しいところだろう.ヨーロッパの国々は脱原発を決定して,ドイツは,とうとう今年になって原発からのエネルギー依存脱却を果たした.カーボンニュートラルの課題やエネルギーリスクの観点から,EU諸国内でも原子力のウェイトは異なるものの,放射性廃棄物の処分等への厳格な管理を設定している点は,核廃棄物の処分や保管など遅々として決まらない我が国に比べれば,意思決定のスキームや方針は明確だといえよう.
 2022年からはじまったウクライナにおけるロシアの軍事侵攻による影響で,世界的なエネルギー不足が発生した結果,我が国の脱原発自然エネルギーへの転換は大きく後退し,結果的に今回の改正案成立となったのである.
 核エネルギー技術は,生まれてしまった以上それをコントロールするために絶やすわけにはいかない.だからといって,生活の根幹になるエネルギーの一部を再び原子力に依存するという事は,兵器としての核廃絶が一向に進まない現状において,後世の人々のことを思えば許されるべきことではないだろう.唯一の被爆国として原子力の平和利用を考える権利がある前提に立ったとしても,自然エネルギーよりも原子力という選択は,国を司る人々が,国家の大計をいったいどのように考えているのかと,はなはだ疑問に思わざるを得ない.
 今に生きる私たちは,四方を海に囲まれた自然豊かなこの国土を,少なくともこの状態で次の世代に渡す義務と責任があるはずだろう.そうやって数千年の時を積み重ねてきたのが,この国の歴史と文化なのだ.その視点に立てば,今こそエネルギー政策において,原発依存を放棄する態度で取り組むことが,その義務と責任を果たすための最低条件であるとともに,震災で亡くなったり,非難を余儀なくされおられる方々に対する真摯な態度であるはずだ.ここにイノベーションを生み出さずに,いったいどこに活路をみいだすというのか.もちろん,核技術は不必要でないばかりか,核戦略の観点からみれば,むしろ重要なキーになりうるだろう.たとえ,戦略核や戦術核を持たないにしても,核による被害という点においては,福島原発の災害と同様かそれ以上であり,被爆国である我が国だからこそ,核技術に基づいた災害対策という視点での技術継承や技術開発は非常に重要であり,我が国だからこそ出来うるものだろう.どうか,もう二度と長崎や広島の惨禍を繰り返さず,福島第二原発事故のような災害を起こさないためにも,この方面の研究者の方々には,核災害を防ぐ技術や災害発生時のリスクゼロのための技術といった,他国ではできないような技術開発に取り組んでほしい.

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