現代のお笑いの全体的な底上げが成された最大の理由
(前回の続き)
現代のお笑いの全体的な底上げが成された最大の理由は、ビデオ・DVD・インターネットが広く世の中に普及したからです。
ビデオ・DVD・インターネットが普及したことで、昔の芸人さんと比べて、質の高いネタに触れる機会が格段に増えました。
しかも、それらのコンテンツを繰り返し見ることが可能になりました。
このことが、一体、何をもたらしたのでしょうか。
それは、駆け出しの芸人が、「今の自分に足らない技術は何なのか?」を測る手段として、ビデオ・DVD・インターネットを使って、容易に、好きな芸人・目指している芸人のネタをシャドーイングできるようになったことを意味しています。
私も芸人時代、特に駆け出しの頃は、毎日のようにやっていました。
以下の流れでやっていました。
①好きな芸人のネタの映像を繰り返し見ながら、そっくりそのまま台本に起こす。(この作業を繰り返しやって行くうちに、笑わせるためのネタの構造が少しずつ分かるようになります)
②台本を見ながら、映像を流し、その映像と同じスピード・同じ声の大きさ・同じ言い方でセリフを言う練習をする。その際、自分の声をテープレコーダーやICレコーダーに録音する。
③録音したものを再生し聴いてみて、違和感を覚えた箇所を、本家のものに近づくように修正する。
④台本を見ないで、同じことをやってみる。
⑤台本を見ないで、映像を流し、その映像と全くスピード・同じ声の大きさ・同じ言い方、同じ動き、同じ表情でできるように繰り返し練習する。その際、ビデオカメラで撮影する。
⑥撮影したものを再生してみて、違和感を覚えた箇所を繰り返し練習して、本家に近づくように修正する。
この練習は、かなり、力がつきました。
撮影したものを視聴する際の観点が、「そっくりそのまま再現できているかどうか」という、シンプルなものだからだと思います。
ここら辺りの話は、教員の世界とも通ずるところではないでしょうか。
同じお笑いの台本でも、自分がやってみると「なんだか違和感を覚える」「上手くいかない」というのは、私のように「授業技術が低い人が、有名な実践を追試した時に上手くいかない感覚」によく似ています。
もちろん、全ての芸人が、①〜⑥のようなことをしている訳ではありません。
むしろ、そこまでの練習をしている人は稀かもしれません。
しかし、少なくとも、私の芸人仲間のほぼ全員が「自分達のネタをビデオカメラで撮影し、チェックする」という作業をやっていました。
チェックする時の観点は、自然と「あの芸人だったら、もっと、こういう言い方をするはずだ」「あの芸人だったら、もっとテンポが速いはずだ」「あの芸人だったら、もっと表情がオーバーになるはずだ」等になってきます。
つまり、何かしら、自分の理想とするイメージがあって、それに近いかどうか、がチェックする際の観点になっているのです。
人は、見たことが無いことに対しては、イメージが持てません。
イメージを持つための手助けとなっているのが、正に、ビデオ・DVD・インターネット等によるお笑いのコンテンツなのです。
ですから、昔のように「質の高いネタを繰り返し観る機会が少なかった時代」の芸人と比べて、現代の芸人の方が個々の技術が高くなりやすい環境にあることは、想像に難くないと思います。
以上のことから、「現代のお笑いは全体的な底上げがなされている」ということが言えるのです。