11.休学して本当に良かったのだろうか

 先日ラボから立ち去った。引き継ぎ準備でドタバタした割に最後はあっさりしていて、私が卒業生を囲む会などへの参加を渋ったせいでもあるけど(だってどんな顔したらいいか分かんないじゃん)、みんなに感謝の言葉も伝えられないまま居なくなってしまった。

 私は休学を決定してから約1ヶ月間、ラボに残って研究を続けた。やっぱり心残りはあったのと、1年後に復学できるのか退学するのか決める判断材料にしたかったのと、「言うてそんな急いで休む必要なくない?」という気持ちと……など色々あって、一言で言えば気持ちの整理をつけるために研究を続けた。
 1ヶ月間最後の時間を過ごした結論としては「やっぱキツイな」という感じだった。特に後半は家を出るのも億劫になってサボりまくり、定期報告会では劣等感で潰されそうになり、研究中は突然嫌な気持ちが溢れ出て何度か実験をやむなく中断した。
 無理したつもりはなかったけれど、もう休学を決めた時点で休むなら休むと心に決めればよかったと思う。

 そうやって憂鬱になっていたのに、ラボを立ち去った日にはつぶやきに書いたように涙が溢れ出た。下宿先で親にそのことを伝えたら(←最近両親に弱みを見せる練習中なんです)、心配されて30分ほど通話した。
 休みたいのと続けたいのと、好きじゃないのとやりたいのとが全部共存していて、自分でも自分の気持ちがよく分からない。

 以前から「休む必要はないんじゃないか」という疑問はずっとある。

 私は精神科で診断が下りていない。何度か通院はしたけど何も言われなかった。だから客観的に見たらまだ休むべき段階じゃないんだと思う。カウンセリングには1年半ほど通ってるけど、向こうから休学を提案されたことは一度もない。
(唯一、消化器内科で機能性ディスペプシアとだけ診断を受けている。キツイっちゃキツイけど、休学と直接結びつく状況じゃない。)
 今回休学するにあたって再診を受けなかったのは、やっぱり甘えなのだろうか。言い訳をするならば、また「あなたはまだ大丈夫そうだね」と言われてしまったら休めなくなりそうで怖かったのだ。

 診断が下りないだけあって、私は必ずしも常に鬱々としているわけじゃない。理由もなく爆発的な希死念慮が襲うことはない。睡眠障害もないし、急に倒れることもない。ラボにも一応ちゃんと行けていた。休学を決めた直後からは概ね気持ちが晴れ渡って、未来に希望を見ている。ラボの先輩との飲み会も楽しんだ。
 健康的な状態ではないけど、病気と言えるほどでもない。やっぱり精神科の先生の判断は正しくて、0/100で異常性を評価するなら私は間違いなく正常だ。
 研究や就活などの真面目な用事に向き合うときだけ憂鬱になるって、サボりとどうやって見分けたらいいんだろう。

 それに、教授にもっと相談すれば、うまく研究を続ける方法もあったかもしれない。先輩に頼れば何とかなったかもしれない(ちなみに同期はいませんでした)。それすらも無理なら、研究室を変えて卒業まで漕ぎ着く方法もあっただろう。
 私はそれらをろくにせずに、逃げる道を選んでしまった。別にラボが嫌いだったわけではないから。みんなに迷惑をかけたくなかったし、影響も与えたくなかった。修士号もそこまで欲しいわけじゃなかった。そんな言い訳をして動かないことを正当化した。

 こんな状況なので、本当は休学に至るほどの材料はまだ揃っていなかった。
 自分のわがままで休学したけど、「全てから逃げる」「全てを辞める」というのも何かの症状なのではないかと少し思っている。だとしたら、本当に休むことが正しかったのだろうか。

 「貴重な1年だね、何かしたいことがあるの? 何をする予定なの?」とよく聞かれる。困る。
 休学中の展望なんかない。でも、休養が目的とも言えない。だって私は診断を受けてないし、本当に休むべき状態なのか分からないから。私の休学の目的ってなんなんだろう。まだ答えが見つかっていない。よくない。

 悩んだときは「私は休学するデメリットを背負ったうえで休む決断をしたんだ! 文句を言われる筋合いはない!」と思って胸を張るようにしているんだけど、やっぱり葛藤はある。
 自分の人生をちゃんと背負っていけるか不安だ。休学を有意義なものにできるか分からなくて憂鬱になる。「本当に」とか「正しい/良い」とかに縛られてしまって、正解が見えなくなっている。
 休学して本当に良かったのだろうか。このモヤモヤは当面抱えて過ごしていくのだろう。

2024/03/26

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