議事録 肆

 八月十日。大人になってから高校二年の夏を思い出すとき、迎えた泉高祭の当日の記憶が、なぜか僕には薄くなっている。梶原の開会宣言を受けて全校生徒が「ワーッ!」と喚声を上げたあの一瞬から、すべてが大河のように動いた。続々と来校する市内外のお客さんや学生の波。自校の生徒もクラスの企画や発表に汗を流し、感情を爆発させて走り回っている。吹奏楽部や合唱部の発表も熱が入り、至る所でラジカセの音楽や音響機器のBGMが反響している。
 その喧騒の最中、僕たち生徒会は決められた役割に従ってカメラを回し、インタビューを続けた。意外と早くに撮影が終わって、余力でお客さんや先生方への突撃質問が実現できた。二日目の朝、登校してすぐに関係者以外が立入禁止になっている玄関から校内に入り、生徒会室の扉を開けると、すでに河野ちゃんが眼鏡をいじりながら画面を凝視していた。僕が入ってきたのを確かめると、すっと拳を出して親指を突き出した。僕も拳を出して彼女の細い指をこつんとつつくと、編集作業を開始した。
 閉会式の終盤、「フラッシュ・メモリー」の文字がスクリーンに投影された後、様々に流れる映像を眺めた。ふと講堂のステージ脇で並ぶ梶原を見たとき、彼が汗だくのタオルで目元を鉢巻きのように締めていたのが忘れられない。

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