case01-06: 着信

いつものように新規客、既存客への対応が続いた。

こういうことをしていると24時間365日、休みと呼べるものはない。5人や10人ならともかく、50人を超えると毎日のように何か事件が発生するものだ。 ただでさえ問題が多い人間を扱うのだから、当たり前といえば当たり前である。

そして夜職では閑散期と呼ばれる2月の終わり頃。

いまにも雪に変わりそうな冷たい雨が朝から降っていた。
それだけでもう、かなり憂鬱な日だ。


……
………

「ふぅ、あとは…こいつか」

朝に喫茶店に入ったはずが、もう昼である。目の前のアメリカンはもう明らかに冷めきっていた。

「…あ?遅れるじゃないから。どうやって?そんなん自分で考えろ。何でもいいから15時まで。何いってんの。こんな電話で話してても金が出てくるわけじゃないんだから。いいからさっさとして。切る」

何件かけただろう。携帯をテーブルに置くと、右耳も右腕もビリビリとしびれたような痛みが走る。首をひとまわししてからアメリカンに手を伸ばそうとした時

(ブブブブブブブ…)

今しがた置いた携帯がもう鳴っていた。勘としか言いようがないのだが、こういう時の雰囲気はなぜか分かってしまう。

(着信中 狩尾)

なんとなくそんな気はした。

わざと目をそむけ、冷たいアメリカンをわざとゆっくりと飲み干し、タバコをに火をつける。バイブでテーブルの端まで動いてしまった携帯をとり…仕方なしに左耳にあてる。

「なに」
基本的に自分から名乗ることはない。

「あ!でた!あの、トーアさん。狩尾です。お忙しいところすみません、まだ終わってないのは分かってるんですけど追加で貸してもえないでしょうか」

こいつもこのパターンか。

「何でよ、終わってないだろ」
「それが…えっと」

もしかしたら理解できる人もいるかもしれないが、借金というものはクセになる。借りれば今の苦しさから逃げられるということを頭が覚えてしまうと、足りなくなった時に<どう稼ぐ>よりも<どう借りる>になってしまう人間が一定数存在する。俺のタバコと同じだ。ニコチンは抜けても習慣はちょっとやそっとでは抜けない。

「事情が分からないと助け方すら分かんないわな」
「実はトーアさんの他にも今、借りているところがあって…その返済とか色々あって…もうどうにもならなくて」
「いくらだよ」
「明日は3万円です」

<明日は>と言った。1件では済まなそうだ。

一般的には金利は年利20%未満が目安である。俺たちみたいなのはそういった金利ですら<借りられないほどリスクの高い>人間たちを相手にしているのだ。リスクが高ければそれなりの金利も当然もらう。それが複数件になってしまったら立ちゆくはずもない。

闇金に多重債務なんていう破滅ルートのやつなんて、リスクなど計測不能・笑えないレベルだ。関わることすら面倒くさい。さっさと突っぱねて回収したほうがよい。

「今日の夜、時間あるか。話をききたい」

思わぬ言葉が自分の口からこぼれたことに驚いていた。

窓の外をふとみると雨はもう雪に変わっていた。

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