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case01-03: 彷徨

大井町にデニーズがあるだなんて…
やるじゃないか、大井町。

「では、そのデニーズに行きましょう」

自然に先導を促す。平静は装えたはずだ。俺は甘いものには目がなく、デニーズとロイヤルホストはチェーンの中ではパフェに関しては群を抜いていると考えている。さっさと終わらせて今季の季節のパフェを食べたいのだ。

「トーアさんはおいくつなんですか?」
「ずっとこうやってお金貸すお仕事なんですか?」
「猫ちゃん飼ってるんですよね?ご家族は?」

女が振り返りながら思考に割り込んでくる。綺麗な髪がそのたびにふわっと揺れ、不安定な歩き方のせいで単にふらついているようにも見える。とりあえず危なっかしい…騒がしい女である。

恐怖心や警戒心はないのだろうか。そこまでいかつい背格好ではないとはいえ、俺がまともなわけがないのだし、金さえ借りられればそんな質問どうでもよいだろうが。それとも話すことで緊張感を紛らわせようとしているのか。

「まぁそこそこですね」
「そんな感じですね」

答えとも拒否ともとれない曖昧な返事を繰り返す。

到着までの5分ほどの間にいくつの攻防があったか、デニーズの看板を見つけると質問の嵐から逃げ込むように店内に入る。生暖かい空気が身体をつつんだ。

おお。全体的に黒を基調としたシックな広々とした内装。非常に落ち着いた店内に思わず気持ちが高まる。まさに俺好み。
と思ったのも一瞬で、ついてないことに今日はあいにくの金曜日。家族連れやビジネスマンやらで大混雑である。落ち着いて話すどころか一向に席が空く気配すらない。

「これじゃちょっと難しいですね!!」
「変えますか…(パフェ…)」

なんでこいつはそんなに明るいのか。空いていなかったことすら愉快そうに微笑む。残念がっている俺の表情が隠せてないのかと慌てて外に出る。何かが背中越しにまた言っているようだが…無視だ。

しかし金曜の大井町はもう二度と使いたくない。どの店も大賑わいである。まさかラーメン屋で話すわけにもいかず、探し回るものの全くそれらしき店はみつからない。当然だがその間の「トーアさん!」の質問はすべて無視している。

結局15分ほど探した後に辿り着いたのは、寂れたカラオケボックスであった。古めかしい雑居ビルの前にたたずむ二人は、何かのダンジョンに挑む冒険者のようである。

「なぁ、仕方ないとはいえ、まったく見知らぬ人と密室になってしまうのだが問題ないのか?俺は構わないがもう少し探すか?」
「いえ、大丈夫ですよ!」

即答。こっちが不安になるレベルでの警戒心のなさである。そのバッグにそこそこの刃渡りのものでも潜ませているのか?しかしこのまま質問攻めを受けたまま寒空の下を歩き回るのもごめんだ。

「あんたが気にしないならいいよ」

雑居ビル特有の古ぼけた薄暗いエレベータに乗り込み、受付まで着くと手慣れた様子で女が受付をする。俺が妙な目的をもった男だったらどうするつもりなのだ?などと再確認しようとするが、友達と本当にカラオケに来ているかのようにテキパキと楽しそうにする姿に声をかけられずに、その背中を見つめていた。

ふと女が振り返る。
さすがに怖くなったか?

「トーアさん!JOYSOUNDにします?DAMにします?」

今日、一番の溜息が漏れた。

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謎の人、トーアさんの私小説。信じても信じなくても、全てフィクションということにしてもらえると助かります。当然、noteの内容についての質問は一切受け付けません。