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case01-02: 出会

2日後の金曜日、JR大井町駅での待ち合わせとなった。

大井町というところは不思議な街だ。
東側には昔ながらの昭和のにおいのする繁華街が広がり、西側には洒落た店が点々と存在している。過去と現実が交差しているような街である。

昭和も終わる頃に生まれているのにも関わらず、こういった古めかしい景色に懐かしさや居心地の良さを感じるのは、映画やドラマのせいなのだろうか?

そんなことを考えながら、小さなスナックや、薄暗い個人経営の古めかしい居酒屋が並ぶ路地を散策する。やけにギラギラしたピンクのライトが少し湿ったアスファルトに反射し、怪しさが更に増している。様々な表情をした人達が、思い思いの店を覗き込みながら浮かべるのは気持ち悪い笑みだ。

(ほんと、人って気持ち悪いよねぇ)

誰に言うわけでもなく独り言のように呟いてみる。待ち合わせをした時間までは1時間ほどあった。大抵の場合は待ち合わせ時間の1時間ほど前には到着している。

今回のように見知らぬ土地を徘徊することを好むこともあるが、そんなことより相手より早く着いていたいのだ。もっと言えば、相手に「お待たせしてすみません」を言わせたい。

どんな交渉事もそうだが、こんな自分の生業であってもまず相手に対して<申し訳なさ>を感じさせることは重要だ。それだけで少しでも上位に立つことはできる。

待ち合わせた場所はJR大井町駅中央口。
目の前に交番があるという最悪の場所である。

居心地の悪さを感じながらしばらく携帯をいじって時間をつぶす。残念ながら遅延者が0だったことなどほとんどなく、常に連絡をしている状態になってしまうのは悲しい限りだ。

(どいつもこいつも、めんどくせぇ…)

溜息をつきながら携帯からふと視線を上げるとトテトテと駆け寄ってくる人がいた。今にも転びそうな、見るからに運動神経の鈍そうな走り(歩き?)方だ。

駆け寄ってきたのは大きめのグレーのフード付きコートを着た女性。綺麗にまとまったショートボブで小さな顔が更に小さく見える。背は150前後、長めの袖で手元は隠れている。そして不釣り合いに大きな黄色いリュックサック。妙にニコニコした表情で駆け寄ってくる姿は…動物でいうとハムスターであろうか。顔つきだけでいえば某色付きアイドルグループの赤色担当に似ているような気もする。

「はじめましてー!」

突如、大きな声をかけられる。
背後の交番からの視線を嫌でも感じてしまう。

なんてやつだ。
あらかじめ背格好や服装は伝えていたとはいえ、迷いなく声をかけてくることなんて普通はできないものだ。

背筋に冷や汗を感じつつ、マンガのようにずり落ちかけた眼鏡を直しながらも平静を装おうと、いつもより余計に丁寧な口調になってしまう。

「はじめまして。俺は大井町は詳しくないんですよ。どこか話ができる喫茶店かファミレスかご存知ですか?」
「あ!デニーズありますよ!!」

…だから声が大きいんだよこいつは。

しかし大好きなデニーズの名前が出たことで僅かに表情が和らいでしまったのか、彼女は俺の顔を覗き込んでどこか満足そうに微笑んだ。

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謎の人、トーアさんの私小説。信じても信じなくても、全てフィクションということにしてもらえると助かります。当然、noteの内容についての質問は一切受け付けません。