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愛のネタバレ

初めて見た時、初めて見たと思えた。

煙草を咥える横顔がかっこいいと思う人を初めて見た。

それだけで、あたりまえだけどなんか嬉しかった。


後期の授業が始まった。久しぶりのサークルは少し憂鬱で、行けば楽しいのは分かっているけれど、行くまでが面倒だと思ってしまう。

代々木公園でフットサルをして、そのあとセンター街に向かって歩いて"東京で1番安い居酒屋"に行くことが、サークル活動のルーティンだ。たまには違うお店に行こうかと話に上がったりもするけれど、結局、喫煙所がある居酒屋がいいよねってことで、毎回ここに落ち着く。

この日もいつも通り、いつもの居酒屋に行った。でも、いつもの居酒屋はいつもより騒がしかった。
近くの卓で、同じ大学の飲みサーで有名なサークルが飲み会をしていた。それだけでない、なんと私たちの隣の卓でも同じ大学の違うサークルの人たちが飲み会をしていた。ここは大学の食堂かと勘違いしちゃうくらい、同じ大学の人たちで溢れていた。


逃げた。

この騒々しい雰囲気に耐えきれず、逃げるように喫煙所に駆け込んだ。

喫煙者なんてみんなそんなもんで、あの狭い部屋の中で、そこにいる人たちですごい騒がしいですねって会話で盛り上がったりした。

たまたま隣にいた。

初めて見た。

初めて見たと思えた。

どっちが先に話しかけたかなんて分からないくらい自然に2人で話していた。
たいてい喫煙者同士の会話は、何の銘柄吸ってるの?から始まる。

ありきたりな会話をして、同じ1年の浪人期間を得て、大学1年生だという共通点で盛り上がって、話のテンポに心地よさを感じてずっと話していたくて、数え切れないくらい吸った。最後まで吸い切ったら、すぐに新しいものを咥えなおした。無意識のうちに。お互いに。
君は、今までで1番煙草を吸った日と言っていた。

仲良くなりたいと思った。また会いたいと強く思った。

どこかで会ったような気がするよりもっと運命で好きだと思った。

これが出会いのはなし。


次の日になっても忘れられなかった。

同じ大学の違う学部で違うキャンパスに通っているから、自分から行動しないともう一度会うことはできないと思った。
だから、向こうのキャンパスの授業を1つ履修した。


こうして木曜の5限終わり、大学の喫煙所で再会した。

その後、夜ご飯を食べに行ったりとかもしたし大学のない日に会ったりもした。美味しい珈琲を求めていろんな喫茶店に行った。

フルーツパフェ1つを2人で分け合って、煙草を咥えながらいろんな話をした。

ふかしてた煙草も気付いたら肺に深く入れれるようになっていた。


星5のうち3.2なんとも言えないこの評価

雨風の強かった木曜日、5限終わりに飲みに行った。3軒目の下北沢のシーシャバー
睡魔に襲われている私を見て、君は気を遣わない関係になりたいから全然寝ていいよと言った。その言葉に甘えて、というより耐えきれず2,30分うたた寝をしてしまった。
どうしようもなく傘を刺すのが下手な私に、君は刺さないでいいよこっち入りなと言った。いつもより近くなったこの距離に鼓動が速まった。私たちは好きだと錯覚した。

また別の日、夜中3時、先輩の家で宅飲みをしてひどく酔っていた君から、電話がかかってきた。
寝惚けた私と酔った君は、好きだと強く錯覚した。

好きか嫌いかで言えば好き

これが付き合う前の1番楽しいときのはなし。


神保町の古本まつりに君を誘った。

お昼ご飯に行った喫茶店で、大きすぎるカレーを食べた。完食したカレーのお皿が下げられて食後の珈琲を飲んでいる時、君は彼女になってくださいと言った。



でもここからはネタバレを含む

付き合う前の距離感が心地良くて、近くなりすぎることを恐れた私たちは、少しずつすれ違った。


2人でいるのに1人みたい

でも私たちは、1人みたいってことに居心地の良さを感じていた。これでいいのかと思いながらも。

私の住むまちに来た君を見て、最後に見たと思った。

君は嘘ついたけど、私はその嘘に気付いていないと嘘ついた。だからこれでお別れ。別れ話ともお別れ。

帰る前にコンビニに寄って、君は君のハイライトレギュラーと私のハイライトメンソールを買った。煙草を買ったら煙草を吸いたくなるもんで、まちの喫煙所に行った。

君が作ってくれた蜂蜜味のパウンドケーキを食べそびれたこと、他愛もない話で盛り上がって楽しくて、出会った時も付き合う前も付き合っていた時もずっとこの距離感だったと思った。変わらない距離感と変わっていく関係性に、その間違いに私たちは気づいた。

初めて別れて、初めて別れたと思った

君は、最初から好きじゃなかったのかもと言った。

好きなんて、錯覚で、その錯覚が解けた今、いつから好きでいつ好きだったのかなんてもう分からない。

高校生までのコドモの好きは青春だ。
これからのオトナの好きは現実だ。

20歳の大学1年生な私たちは、オトナの好きとコドモの好きの狭間にいて、大人に成りきることもできず子どものままでもいられなかった。

これが愛のネタバレ

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