見出し画像

ほしいままのきみ

時計はたぶん随分前にとまったし、食器は洗ってカゴに入れたまま埃をかぶっている。洗面所のタオルはずっと変わってないし、来るたびに悲しい思いをする。きっとこの先も変わらない。
友達はいるし、妻もいる。父母はいない。
いないことの悲しさはわたしには計り知れない。
計り知れないながらにも、わたしは悲しい。
能天気で絵も裁縫も工作も老人の相手さえも上手な彼女は、この先しばらくはわたしにたくさんのことを教えてくれると思っていた。終わりはあっけなかった。
月日は何も解決してくれなかった。逆に、ただわたしの中の怖い溝を深めていくだけだった。
許したくなかった。大陸の地をか、海の上をか、熱帯の国をか、はるばる渡って来てしまった君を。憎むことすら許されずわたしのことも蝕んだ。頼りにしていた君が死んだ夏、彼らの恣だった。姿形を変えわたしたちの元へ来る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?