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20230903タイトル【ウミガメの上陸は希望の光】ラジオドラマ脚本

登場人物

主人公 加藤めい(かとうめい) 27歳 助手
    深井亀治郎(ふかいかめじろう) 68歳 担当教授

(SE)研究室で鳴り響く校内放送

めい 「教授、最近、大学校内の避難用の実験放送、多すぎませんか?」
亀治郎「南海トラフ発生までだ…ウミガメの帰浜もなくなるな」
めい 「あっ備蓄倉庫の食料!」
亀治郎「ほれみろ、放送も役に立つ」
めい 「徳島大ウミガメの権威、亀ちゃんの御宣託、ありがたく頂戴いたします」亀治郎「心にもないこと言うな!」

(SE)父親の怒鳴り声「こんな時間にどこにく、高校生の分際で!」

めい 「怒鳴られるのは、勘弁。でも‥」

めい(M)私の家は昭和南海地震で流され漁師だったお爺さんは未だ行方不明。父
     親は海沿いの家を諦め高台に家を建てた。「海は怖いぞ」

めい 「ごめん、痛いと思うけど…スイッチ入れ赤くLEDが光った。痛くして
    ごめんね」

めい(M)爺さんにウミガメの話を聞いてから忘れられないんだ。父さん、日和佐
     の海を見捨てられない。

めい 「これで君の行動は僕にお見通し、ストーカーの気分が理解出来る(笑)」

めい(M)父さんにさんざん怒られたけど、私にはウミガメなしの人生は考えられ
     ないんだ。父さんごめん!

(SE)ウミガメの摺足

めい 「数年後に帰ってきて!絶対だから、えっ、今…」

めい(M)なに?ウインク?、うそ!私が恋に落ちた瞬間だった。

(SE)研究室内に響くチャイムの音

亀治郎「2015年の地震後、2016年もウミガメの上陸の数が減った」
めい 「津波で瓦礫が沖に流され、浜も変わった事が大きく影響したのかも」
亀治郎「それ以前に、ウミガメの生息域はどこなのか?海に戻りすぐに外洋にむ
    かうのか?外敵の多い外洋に出るのはリスクが高すぎると思うが…」
めい 「そうですね」
亀治郎「一説によると25年程度は生まれた浜の沖合に生息という説もあるんだ」めい 「だから、生まれた浜に戻れるということですか?」
亀治郎「想像に難くはないな」
めい 「東日本震災と同じで指を加えてみてるしかないのか…」
亀治郎「東日本震災の時は当年は減っても仕方がなかったが、2012年以降は
    増加に転じてるんだ」
めい 「そんなにすぐに?」
亀治郎「だが、2010年は突出して上陸数が多い年だったウミガメに地震予知
    の能力が備わってるのか?」
めい 「地震予知?」
亀治郎「おそらく、ただの偶然だろうなあ」
めい 「ウミガメと地震予知」
亀治郎「1968年以降、上陸頭数が減ってることの方が重要だ」
めい 「68年の上陸頭数からみたら激減ですよね」
亀治郎「実際にウミガメの生息がどこなのかが鍵だろうな…」
めい 「あっ!GPSくん」

めい(M)2014年にタグ付けたGPSくん、帰ってくれば…なに期待してるん
     だろ!バカじゃん!

めい 「亀ちゃん、実は、ウミガメにGPSタグを付けた事が…高校の時にあっ
    て、すみません。黙っていて」
亀治郎「SDGsの時代じゃなくてよかったな。戻ってきたらいいサンプルデー
    タになるな」
めい 「サンプルってやめてください!」
亀治郎「それ以外に何がある」
めい 「男前のウミガメだったんですよ」

めい(M)あの時、海に入る寸前に絶対に笑った。あの笑顔が忘れられない!

亀治郎「言葉が通じる動物にしとけ!」
めい 「変ですか?」
亀治郎「今夜、産卵パトロール行くぞ」
めい 「一年が経つの早すぎ!」
亀治郎「その男前のナンパ野郎が、上陸すると、今後の研究材料になるんだが…」めい 「なんてことを!」

めい(M)ウミガメ世界でもモテモテかもな、タグを付けた人間として恨まれてる
     かも…。

亀治郎「研究室の防災用の食料消費期限大丈夫か?さっき確認すると…」
めい 「あっ確認します」
亀治郎「本当に、お前はウミガメ以外に興味がないのか?」
めい 「この師匠に、この弟子ありです!」
亀治郎「バカやろう!」
めい 「興味ありますよ」

めい(M)亀ちゃん、ごめん。GPSくんが忘れられません!

亀治郎「消費期限についてだが…」
めい 「県を通じてフードバンクに持ち込む手筈…、ちゃんと覚えてますって」
亀治郎「ほんとか?」
めい 「ウミガメだけじゃないですって」

めい(M)2023年、そろそろ、戻ってきてもいい頃、。亀ちゃん、何度も、嘘
     ついてごめん。

亀治郎「昼、フィッシュカツでも食うか?」
めい 「たまには、ご馳走してください」
亀治郎「よく、貧乏教授によくたかれるな」
めい 「だってフィッシュカツですよ?」
亀治郎「文句を言うなら、食べなくてもけっこう、領収書は忘れるな!」
めい 「ビール、ダメですか?」
亀治郎「お釣り、ちゃんと返せよ」
めい 「信用してください」
亀治郎「その前に、備蓄倉庫のチェック、忘れるな!」
めい 「あっ、備蓄のチェック、一緒に手伝ってください」
亀治郎「昼、誰が奢るんだ。えっ!」

(SE)日和佐駅、電車の音

亀治郎「日和佐駅も津波でやられる可能性があるんだ」
めい 「内陸な気がしますが…」
亀治郎「この川が大きな問題に…」
めい 「遡上する可能性か」
亀治郎「今回の南海トラフで津波リスクを各自治体で発表してるんだ」
めい 「もし、この辺り、津波が来たら…」
亀治郎「車や家や何から何まで海に引き込まれる事が想像できる」
めい 「この川、海にまっすぐ繋がらないから瓦礫も…」
亀治郎「想像が難しいが、この川が瓦礫でいっぱいになるかもな」
めい 「環境悪化の原因に」
亀治郎「どんな状況になるか、全く見当も立たないのが現状だ」
めい 「なんとかならないんですか?」
亀治郎「南海トラフのパワーが想像できないからな…」
めい 「ウミガメは?」
亀治郎「実際に南海トラフが起きた場合、観光産業の復興は二の次三の次だろう」めい 「そこは…」
亀治郎「ただな、僕が思うにだ…」
めい 「人々の希望?」
亀治郎「地震後にここに住む人たちのためにも、我々が出来ることがあるだろう」めい 「復旧には時間もマンパワーも必要、そこは行政に任せて…我々?」
亀治郎「人にはそれぞれに生まれてきた理由があるはずなんだ」
めい 「理由って?」
亀治郎「今、何をしてると思ってるんだ」
めい 「GPSくんが鍵だ!」

めい(M)そうじゃん、なんで、私ってバカなんだろう!

亀治郎「気がつくのが遅くないか(笑)」
めい 「弟子として恥ずかしい次第」
亀治郎「GPSくん、見つけるぞ!」
めい 「地震の後にウミガメが戻ってきたら、絶対に希望になるよ!亀ちゃん!」亀治郎「勇気にもなると思う」
めい 「亀ちゃん、あれ!」

(SE)日佐和の浜の波の音

めい 「えっ?赤い光が…」  

【完了】

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