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2022-007【気ままな子猫】ラジオドラマ脚本1014

【SE】猫の鳴き声

錠 「今日もいたか、ちゃんと食えよ、明日の朝、この時間に会うことはない
   んだ」

錠(M)会社を退職した。明日からは自由の身。朝から、ビール飲むぞ!

結子「じろじろ見ない!そこ!」
錠 「なんだ?なんだ」

錠(M)裸足の浮浪者か?でも…。

錠 「こっちに来るよ。えっ、怖い、怖い」 
結子「火、貸して」
錠 「タバコ、吸わないんだ」
結子「誰が、タバコ吸うといったよ、私も、吸わないよ」

錠(M)よく見ると、天使の輪ができるくらいに綺麗な髪だな。身なりも…。

結子「タグだよ、タグ」
錠 「タグ?」
結子「スニーカーが壊れて新しいの買った。タグが取れないんだよ」

錠(M)だからか。勘違いもするさあ。

錠 「あっ、タグね」

結子(M)裸足だから、その目線になっても仕方ないか、異質な物を見る目。

錠 「人に物を頼む…」
結子「気の良さげな男に見えたけど、私の見間違いだった」

錠(M)人生初の退職の日に、見知らぬ女に絡まれるなんて、最悪だよ。

錠 「あの〜」
結子「火、どこからか見つけてきてよ」
錠 「あれ?俺、頼まれてる?」
結子「セックスしたくない?」
錠 「したいです!」

錠(M)つられて、返事しちゃったよ。退職のご褒美ってことで…。

錠 「貸して」
結子「あっ」
錠 「このくらいなら引きちぎれるよ」

【SE】タグを引きちぎる音

結子「あっ、指から…」
錠 「大丈夫、大丈夫、大丈夫」

結子(M)どこの世界にも、いいとこ見せたいと思う雄はいるもんだ。嫌いなタ
     イプ

錠 「ほら、止まった」
結子「止まらなかったら、病気だよ、きみ」

錠(M)なんだ、この女、ここは、ありがとだろう。世間一般の常識が通じない
    ってやつかも。

結子「私は、ゆうこ」

錠(M)夕飯を買いに行って戻ってこない彼女と同じ優子だ。

結子「私は、結ぶ子と書いて結子だからね」

錠(M)俺の心見透かれた?元カノは優しい子と書いて優子。

錠 「えっ、あっ」 
結子「名前は?」
錠 「錠、呼び捨てでいいよ」
結子「お腹すいたから、いつものようにご飯食べさせて」

錠(M)なんだ、こいつ、いきなりご飯ってどういう根性してんだ。明日か
    ら、自由の身、まあ、許しましょう。

錠 「ビールぐらいなら」 
結子「ケチくさいなあ、今夜、やるんでしょ」
錠 「あ〜、やるよ」

錠(M)バ、バカやろう。よく考えろ。

結子「よかった」
錠 「なにが、よかっただよ。わからない女だよ」
結子「お祝いだよ、お祝い」
錠 「別にしてもらわな…」
結子「あっ、ゆうこよりも、けつこの方がしっくりくるんだ。よろしく」

錠(M)人の話を聞けよ、こら!

錠 「けつこ、うん、いい感じだ」
結子(笑)「お尻は、小さいけどね」

錠(M)よく見ると、スリムのデニムがよく似合うスレンダーな雌猫みたいだ。

結子「美味しいものにしてね」
錠 「奢るなんて言ってねえぞ!」
結子「喉が、乾いた。ビールがもう少し飲みたいなあ、その後、ハイボール」

錠(M)退職祝いで、‘俺が奢るの変じゃね

【SE】猫の鳴き声

結子「いい選択、ビールだね」
錠 「だろ、餃子には」

結子(M)何度かこの店を通った時に錠を見かけてたんだ。でも、その時は…。

錠 「給料日のご馳走は、ここでって、いつも決めてたんだ。常連じゃないけど」

錠(M)けつこのやつ、妙に馴染んでるよ、この店に。


餃子

結子「おじさん、餃子2枚、ニンニク多め、よく焼きそれと、大瓶2本」
錠 「なんだ、‘ニンニク多めって、臭いぞ、明日、会社で問題になっても知ら
   ないぞ」
結子「なんで、会社辞めたの?」
錠 「なんでかな」
結子「明日から、‘何にもないの?」
錠 「有り余る時間を持て余すつもり」
結子「思ってるよりも会社、辞めるなんて、簡単だよね」
錠 「簡単さ」

錠(M)引き留められることもなく、あっさりと、ただ、同僚の目は冷たかった。

結子「自由気ままって、最高」
錠 「けつこ、君は、何してるの?」

【SE】リズミカルな鍋の音

結子「私、何してるように見える?」
錠 「え〜」
結子「ねぇ、よく焼きって言ったよね」
錠 「黙って食えよ、俺の奢りなんだから」
結子「じゃ、水餃子3枚追加ね、ニンニク多め」
錠 「また、多めかよ」
結子「妊活夫婦に間違われたかもね」
錠 「けつこ、いくつ?」
結子「38歳」

結子(M)もう、若くないよ。

錠 「えっ、そうなの?」

錠(M)俺のねぇちゃんと同じかよ、嘘だろう。

結子「嘘ついてもさあ」
錠 「年上に、‘見えない」
結子「騙されたと思った?勘違いしたのは、錠の勝手だからさあ」
錠 「騙された」
結子「呼び出されたら、仕事に行く感じかな。今は」
錠 「人材派遣的な?」
結子「そんな感じだよ、さぁ、あたしと今夜やる気なんでしょ?」
錠 「ニンニクくさいやつと?」
結子(笑)「魔除けが効いた」
錠 「バカにするなよ。バ、バカに」
結子「だれでもいいってもんじゃないんだよ」
錠 「ニンニク、気にしないし」
結子「翌朝、彼氏ヅラしたら、さよなら」
錠 「彼氏じゃ、ないし」
結子「錠の部屋に行こう」
錠 「やっぱり、ニンニク臭いよな」

【SE】部屋の鍵を開ける錠

錠 「ビール飲むか?」
結子「飲む!」
錠 「出窓は俺の指定席だから」

結子(M)朝、錠が眠そうにコーヒーを飲むのをよく見てたよ。

錠 「しょうがねぇなあ、今夜は、特別だぞ」
結子「よく、月が見える」

【SE】錠のいびきが響き渡る。

結子「あっ、寝ちゃったよ、今夜しかなかったのにさあ。バカやろう」

【SE】猫が鳴きながら、寝てる錠に頭の上に飛んだ

錠 「けつこ?えっ、なんで、猫が。窓、開いてたのか?」

【SE】猫の鳴き声

錠 「猫は、自由でいいな。あっ、俺も今日から自由の身だ。けつこ、けつこ!」

※無断転載等禁じる


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