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コーヒーをなんと呼ぶ

 関東で育った私が、大人になって初めてその地域を訪れて喫茶店に立ち寄ったとき、何とも言えぬ不思議な感覚を覚えたものだ。

 その地域にあるとある喫茶でコーヒーを頼むと、出てきたコーヒーカップのソーサーにつまみのようなものが付いてきた。確か小粒煎餅とナッツのセットだったと思う。
 聞けばその地域ではコーヒーにはこういったおまけが付いてくるという。おまけの種類は店によって様々だと言う。いわゆるお茶請けと言うやつだろうか。その地域の人達にとっては当たり前なのだろうが、慣れない私はちょっと得した気分になった。

 しかし、そんな事を地元の人に話したら「あんたモーニングを頼なかんわ〜」と、少しバカにされた様に言われた。なぜかと言えば、その店では一日中モーニングメニューを提供していて、モーニングを頼むとコーヒーにトーストとゆで卵が付いてくるのだという。
 別に腹が減ってないときにそこまでのおまけは要らないけどなと思ったけど、「いやぁ失敗しました~」なんて話を合わせた。

 別の日の休日に早朝の喫茶店の前を通り掛かると何やら人だかりが出来ていた。その店は米屋みたいな屋号のチェーン店で、どうやら開店前から近所の人が並ぶらしい。家から遠くないけれど歩くなんて野暮なことはせず皆車で来ているらしい。
 オープンとともに店内になだれ込むお客さんたちは、入口入ってすぐの所に置いてある新聞や雑誌を掴むと店内を小走りでまっしぐら、お気に入りの席を取る。ウェートレスがテーブルに来るやいなや皆口々に「ホットモーニング!」と言っている。聞いていた私も真似してホットモーニングを注文する。きっと暖かい何かが来るのだろうと予想しながら。
 子供連れ客の中には何やらフランス語っぽいメニューを頼む人達もちらほらいた。

 待ち焦がれた私のもとにウェートレスが運んできたのは何の事はない、ホットコーヒーとトーストとゆで卵だった。ホットモーニングとは、ホットコーヒーのモーニングセットのことだったのだ。

 ところで、関東ではホットコーヒーを注文する時にブレンドと言うのが普通だが、その地域では単に「ホット」と言うらしい。彼らに言わせればブレンドじやホットかアイスか分からんじゃないかと言うことなのだが、こちらにしてみればホットじや何のホットか分からないじゃないかとなる。
 しかし、最近の私がコーヒーを頼むとき、気づけばホットコーヒーと言っている。言うたびにお店の人に「ブレンドですね~」と言い直される。何故ホットコーヒーと言ってしまうのだろうかと考えてみると、ドトールなどのチェーン店が普及したせいではないかと思う。そういった店では必ずホットかアイスか聞き直されるので最初からホットと言う癖がついたのだろう。

 さて、ここで問題です。
 今回の話の中で私が大人になってから初めて訪れたというある地域とはいったいどこでしょう。
 ヒントは私の妻が生まれ育った街です。
 そんなの知らんがねーって? 

おわり

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