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ミリ速の人々

 高齢者の絶対数が増えているせいだろうか、街で移動速度が著しく遅いお年寄りを良く見かけるようになった。

 人類の歴史上、産業の発展とともに人や物の移動速度は年々増加してきたと思っている。蒸気機関、内燃機関、電動機といった駆動装置の発展によって、高速で移動できる乗り物が発達し、陸海空での移動速度はとてつもなく速くなっている。
 そのお陰で、毎日何十キロも離れた地に通勤して働くことが出来るし、ネットで注文したものが翌日に届くなんてことも可能になっている。

 そんな世にも関わらず、動いているのか動いていないか分からない位にスローに移動しているお年寄りを見かけることが多くなったと感じている。
 両手に杖を突いている人、小さめのキャスター付きバッグを支えにしている人、歩行器のようなものや買い物カートのようなものを支えにしている人など伴にしている道具は異なれども、一歩一歩を踏み出す動作自体が著しく困難になってしまったお年寄り達だ。

 恐らく歩行訓練というかリハビリを兼ねて日用品を買い出しに出歩いているのだろうと思うのだが、その速度では近くのスーパーに行くだけでも半日仕事ではないかと思う位にスローな歩みに心配になる。しかし度々見かけるうちに、この人はこういう人だというか、それが日課の一部なのだと変に納得してしまう自分がいる。

 年を取ることで自ずと筋力が低下するのは仕方が無いが、そういったお年寄りを見ると、筋力低下に伴って日常のあらゆる動作に支障が出ることになるということを想像させられる。
 屋外のみならず、室内の移動だってスローに行わざるを得ないはずであり、例えば急にもよおしたとしてもトイレに「駆け込む」ということは出来ないはずだ。となれば予めトイレに行けないことを想定して準備が必要だし、お腹が空いたからといっておやつの入っている棚までたどり着くのに30分掛かったとしたら、到着したときには今度は水が飲みたくなっているかもしれない。

 ともかくも人が人たるためには足腰が丈夫なことが必要で、ある程度の速度で移動できることが快適な生活を送るための必須条件だということを思い知らされる。
 若い人から見れば、年寄りは時間がたっぷりあるんだから別に多少歩くのが遅くなっても大した問題じゃないと思うかもしれない。しかし、年を取るほどに残された時間が少なくなることにおびえて時間の貴重さが増していくのも事実で、単なる移動に多くの時間を費やすことは本意ではないと想像する。

 せっかちな自分の場合、スローな移動にイライラを抑えられなくなってそのストレスでやられてしまいそうなので、今から足腰強化をしなければと思う次第である。

おわり

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