人間が言語で思考する限りAIの進撃は止まらない
言葉を使わずに考えてみて下さい。
まるで禅問答のようだが、あなたは現実的に答えを持ち合わせているだろうか。数学者ならきっと言葉に頼らなくとも数学の問題を考える事が出来るだろう。そろばんの暗算が出来る人なら、頭の中に浮かぶそろばんの玉を動かして計算が出来るだろう。
では、こんな質問ではどうだろうか。
戦争と平和について言葉を使わずに考えてみて下さい。
言葉なくしては考え事に思いを巡らせることも、次の休暇の予定を考えることも、もちろん会話をすることも出来ない。言葉無くして人は何が出来るだろうか。
それでいて、私たちに必要不可欠な言葉は、大して多くはない。言葉と言葉の組み合わせもそれほど複雑でもない。ある言葉の次に来るはずの言葉はたいてい決まっていて、ある程度予測がつく。会話の中でも、次に相手が言うであろう言葉を私たちは知っている。
予測通りの言葉が返って来ると、私たちはその相手が人だと思い込む。
言葉の登場する順番が決まっているとしたら、それを決めているのは過去だ。過去のやり取りを蓄積することで次に来る言葉の予測が成り立つ様になる。人の場合はこれを経験と言い、AIの場合は学習と言う。
今のところ、人間に出来てAIに出来ないこと。
これは簡単で、予測を裏切る会話だ。予測通りで無い言葉の登場は笑いになり、発見や発明になる。今までには無いことだからこそ新しいと言われる。
ノーベル物理学賞受賞者のヴィルヘルム・レントゲン氏がX線を発見するまで、この世にX線が無かったのではない。それより以前にも至る所にX線は存在していたが、人がそれに気付かず、名前を付けていなかっただけだ。言葉を使ってその存在を証明して、その現象に命名することで、新たな知識となる。
この錬金術のような言葉の創造の積み重ねこそが、私たちが知識と呼んでいるものの正体だ。
今のところAIにはこれが出来ない。
過去の言葉の羅列の中に新たな言葉は出て来ないからだ。
私たちが信じてきた知能が過去の言葉に囚われたものである事が分かった今、人間が言語で思考する限りAIの進撃は止まらないだろう。
おわり
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