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手軽なラーニングは学びになるのか

 コスパやタイパが良い学習を目指す若者が増えているという記事を最近良く目にする。
 コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスという考え方を企業や組織の生産性の議論で用いるのは構わないが、個人の学びの場に持ち込むのには注意が必要だと思っている。
 よって、私はコスパの良い学び方に対してアンチの立場だ。

 難しいのは、効率良く学習して効率よく稼ぐという考え方自体が誤っているのではないということだ。
 むしろ私が気にしているのは、こういった考え方だけが学ぶことの本流や主流だという風な誤解をすることにならないか、ということだ。
 何が言いたいかというと、学びには効率良く学習するというやり方がマッチする局面があるにはあるものの、学びの多くは効率良くは学べないものだということだ。もちろん、これはあくまでも私個人の経験上の感覚的な意見だから、私の経験では違うという人がいたとしてもそれを否定する意思はない。

 効率良く学べるということは、言い方を選ばなければ、その程度の学びということだ。そんなものを学びと呼ぶこと自体が学びに失礼じゃないかと思うほどだ。
 恐らく、「効率よく学ぶ方法」と言った時の学びとは、知識の吸収ということを指しているのではないだろうか。知識の吸収は私からみれば学びでも何でもなく、ただの記憶動作だ。

 それでは、ただの記憶と学習の違いは何だろうか。

 例えば検索ワードの選定の仕方やコツみたいなものは、ある種のセンスと思われがちだが、図書館の司書の分野ではレファレンスサービスのスキルとして学術的に体系化されている。
 つまり教科書として纏められているものということであり、その教科書の内容をなぞることで、それを知識として吸収出来るというのは言うまでもない。
 では、教科書の一言一句を憶えればそれで済むのか。
 憶えさえすれば効率的な検索が出来るようになるのか。本当に欲しかった情報にスムーズに辿り着けるようになるのか。
 答えは否だ。

 実はそこにこそ記憶と学習のギャップがある。

 単に記憶しただけで役立たない知識を身につけたとしても、それは学習にはならない。それが私の論点だ。
 得た知識を実践で使えるようになることこそが学習の目的でありゴールであるはずだ。それが学びだ。

 言葉の定義の問題かと思いがちだが、それは違う。

 知識の習得と「学び」の間に立ちはだかるクレバスは底なしと言えるほど深い。知識を十分に活用出来るようになるには、実践での反復練習が必要だし、それを無意識で出来るレベルまで持っていかなければ実用的とは言えないからだ。

 つまり、学びにコスパやタイパなど無い。

 なぜなら、学びは誰かに教わるものではなく、実践を通じて自分自身で体得していくものだからだ。もちろん、要領の良さは人によって違うから、学ぶのに必要な時間は人それぞれだ。

 どうして人によって要領の良さに違いが生じるかというと、それはその人の持つ引き出しの多さに関わっている。間違ってはならないのは、ここで言う引き出しとは知識の引き出しではなく、学びの引き出しのことだ。
 自ら学んだ経験が多けければ多いほど要領良くこなすことが出来るようになる。第二子の方が要領が良いと言われるのは上の失敗を見て学んでそれを実践して来ているからだ。

 小学校以来、大学の前半に至るまで、教科書に書いてあることを憶え、憶えたかどうかを確認するという学習過程を連綿と続けたおかげか、私たちは記憶するということに学習の重点を置きがちだ。
 しかし、英会話でもそうだが、知識として単語や文法をいくら沢山憶えても、それで会話が出来るようにはならない。もちろん効率よく学習するためには最低限の文法的な知識は必要だけれども、会話のリズムや音程、息継ぎの仕方、あるいは言葉から立ち現れるイメージ、それにジェスチャーや表情・目線といったことの実践知識の方が役にたつ。

 知識というのは、人類がこれまで蓄えてきた過去の学習の成果であり、現在の私達が先達たちと同じ時間を掛けてそれを習得する必要が無いように体系的に纏められたものだ。
 例えば数学において、その考え方を導く計算過程を1回1回計算するのではなく、公式として覚えることで実践的に使えるようになっていることは、学習効率を高めるために知識が利用されている良い例だ。
 歴史を学ぶのもの、それによって同じ過ちを繰り返さないことで、より早く次のステップに進むためだ。

 こうした知識としての遺産があるからこそ私達は先に進める。
 新たな知的分野に挑戦出来る。
 なので知識の習得は非常に重要だし、知識の体系化もとても大切だ。

 しかしそれにもまして、その知識を利用して自分の頭を使って学習するという経験が重要だ。それには是非十分な時間を掛けてもらいたいと思うのだ。

おわり


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