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テレビ放送の音質は無駄にいいのだ

 テレビを買い替えたら良くテレビを見るようになったと言いたいところだが、そんなことはない。
 ちょうど冬季オリンピックがやっている時期なので、その影響で時折中継を見たりはしているが、テレビの前に鎮座してじっくり見ると言うのではなく、時々除き見る程度だ。

 テレビが新しくなると適正なボリュームが分からなくなる。以前のテレビではボリューム20が私の標準だったが、ボリュームの数字はメーカーによって違うのだろうか新しいテレビでは20では小さく感じた。そこで24くらいで見ていたのだが、音周りの設定項目をいじっているうちに今度は24だと大きすぎるように感じ、また20にしてみたり。

 音量の問題はリモコンで上げ下げすれば済む話なので大した問題ではない。害があるとすれば音が大きすぎた時にちょっと驚く位なものだ。
 気になるのはむしろ音質だ。テレビにそんな音質を求めてどうするのと言われそうだが、音質以前に音の実体が感じられない。デザイン的にスピーカーがどこに付いているか分からなくされていて、それはそれでスッキリしていて悪くはないが何処から音が出ているのか分からない時点で音の実体を見失う気がしてくる。
 せめて画面の中央から音がすれば違和感は減るだろうし、そういう機種が確かあったはずだが、安いモデルではなかなか搭載は難しいだろう。音を加工してバーチャルに画面から音が出ているかのように細工をしているのだろうか、どうもふわっとした芯のない音しかしてこないと思ってしまう。

 こう書くと、こいつはえらく音にうるせぇなぁと嫌がられそうだけれども、別に音にこだわっているのでは無い。
 音がどうのと言うのは、見る側の受像機のところでこんなにもスポイルされてしまったら、テレビ放送から出ている音を作った人達の労力が無駄になってしまうと思う老婆心からだ。
 テレビ放送の電波には、実は結構いい音が乗っている。無駄に高いマイクや機器を使って、その道のプロフェッショナル達が録り、こだわって作り上げた音が込められている。何なら業務用のワイヤレスピンマイクの値段をググってみてくれ。
 画像は見て違いが分かりやすいので、店頭に並ぶ画面を見ながら「こっちの方がいい色だわねぇ」なんてのたまう御婦人を見かけたりするが、「こいつは音が良くねぇなぁ」と言うのを聞いたことはない。私はそんな光景に出くわすと、画像なんて調整で変えられるのにと思いながらもそうとは口に出さずに御婦人の後ろを通り過ぎる。

 で、何で私が、ホントは音がいいのにという前提でいるかと言えば、実際音がいいからである。
 我が家のそれほど高級ではないホームシアターでも、アンプとスピーカーから放出される大音量のテレビ放送の音を聞くと、テレビ放送にはこんなにもいい音が入っているんだねと私は心の中で呟いているのだ。ニュース原稿を読み上げるアナウンサーの声にもしっかりと芯があって張りがある。音量を上げても破綻しない。低音から高音までバランスが良く収録されている。そして何より重要なのは、違和感を感じさせない自然さがある。
 そういった音の基礎体力を兼ね備えているからこそ、どんなテレビでも普通に聞ける音が出てくるのだ。だからせっかくなら良い音で聞いてあげたいし、それを感じてあげたい。

 そう思った私は思わず横にいた妻に聞いてみる。
「ねぇ、テレビの音もこうやってアンプを通して聞くと、結構いい音だと思わない?」
 それに対する妻の反応はこうだ。
「そうぉ? 別にこっちのテレビと大差ないけど。て言うかアンプにするとやたら音量上げるのやめてくれない? うるさすぎるから。わたしはテレビの音で十分」と。

 そうです。改めてテレビの音を聞いてみれば、これはこれで結構いい音です。何を言っているのか分かればいいんです。内容が伝わればいいんです。テレビの音に余計な蘊蓄を考えようとした私がおかしいんです、きっと。

おわり
 

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