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Netflixドラマ『逆上』

 あなたが怒りに駆られることのない人だとすれば、きっと親に感謝した方が良い。
 私を始めとした多くの人は、しばしば怒りに振り回される事がある。それは代々受け継がれる呪いの様なものだ。

 自分の車の前に脇道から別の車が入っていただけで逆上する様な人の何と多いことか。
 怒りという衝動は不思議だ。人間社会にとって決してプラスに働くことのないものなのに進化の過程で篩い落とされなかったのだ。今でも持ち合わせている性質があるのは、その必要性があったからだという説明がなされるが、怒りに関してはたまたまこれまで生き延びてきたただけで、今後滅ぼされるものだと思っている。そう思いたい。

 怒りの衝動の源は、受け容れられたいという欲求だろうと思っている。不平や不満もそうだし、思い通りにならないと怒り出す。しかし本人は思い通りにならないから怒っているという自覚が無い場合が多い。そしてその欲求の起源は親との関係性にある。少なくとも私はそう思っている。

 英語で、騒ぎ立てるや文句を言う、あるいは問題事といった意味で使われるスラング、「beef」(ビーフ)がこのドラマの原題だ。綴は同じだが牛肉ではない。
 ホームセンターの駐車場で車を出そうとしてクラクションを鳴らされ、しかも中指を立てられたことで逆上する主人公。抑えられない怒りは、彼をカーチェイスに駆り立てると同時に、この物語の牽引役になっている。

 舞台はアメリカだが登場人物の多くはアジア系。脚本は韓国人で監督は日本人。それでいて話の主題は普遍的だ。国や人種に関わらず、怒りの問題の根の深さを物語っている。
 
 出来ることなら穏やかに過ごしたいと心から願っているのに、不意に襲ってきたと思ったら6秒ルールを思い出す前に沸騰させられてしまう様な逆上を恨んでいる私にとって、このドラマは身につまされながらも教訓となるものだった。
 心の内を語り合う暇が無いほど日常に追われた時には、このドラマを思い出すと良いかも知れない。

おわり

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