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薬局

 毎日飲まなければならない薬があって2ヶ月に一度は通院し薬を処方してもらっている(飲まなくても生死に関わるような薬ではない)。

 手持ちの残りが少なくなってきたので重い腰を上げて病院に行ってきた。いつも空いているその病院にしては昨日は混んでいて、調子はどうですか、順調です、ではまた二ヶ月後に、という会話をして処方箋と書かれた紙を手に入れるだけに一時間掛かった。

 入手した紙を片手に薬局に向かった。昨日はいつも行く病院近くの薬局がお休みだったので、家とは逆方向に少し足を伸ばして別の薬局に行った。

 受付らしきところに「処方箋」と書かれた箱が置いてあって、その向こうで何か作業をしている白衣を着た眼鏡をした女性がいたので、カバンからさっき貰った処方箋を取り出し、こんにちは、と言いながら紙を箱に入れた。
 受付にいたその女性は忙しかったのだろう、作業していた手を止めず、お薬手帳はお持ちですか、と薬局では定番の質問をされた。

 普段から手帳の類を持ち歩かない私は、病院に行くときもお薬手帳を忘れなかった試しはなく、薬局でこの質問を受けるたびに、家にはあるんですが…と答える羽目になっていた。だから長年忘れ物常習者になっていたのだが、最近ではお薬手帳アプリなるものがあると聞き、2年前からはアプリを使うようになっていた。

 だから昨日も、受付の女性に、お薬手帳はアプリを利用しているのです、と伝えた。するとその女性はQRコードが印刷されたものを差し出して、これを読み取っていただくと薬局側でお薬手帳の内容を見れるようになるので、と言う。これまで薬局でそんなことを言われたことがなく、アプリにそんな機能があるかも知らなかったのでアプリのメニュー画面を探していると、私のスマホに目をやりながら、どうやら私の使っているアプリが違うものだったらしく、お薬の内容が分かるところがあるはずだという。
 それなら知ってますよ。私は得意気に、お薬リストというメニューを開いて画面を見せた。
 するとその女性は、それじゃなくて、と言う。私は操作しながら、ここでほら薬の内容が見れますよと示したのだが、これでは駄目らしい。ページを戻ってというのでまたメニューページに戻って見せたが、アプリが違うと分からないらしく、さっきの画面を後で薬剤師に見せてくれという。

 なんだか面倒臭くなってきて、これって見せなければならないのかと聞くと、飲み合わせやアレルギーの問題とかがあるので確認することになっているのですと言う。
 でも今まで見せたことがないと言うと、そんなはずはないという反応だったので、最近ルールが変わったのですかと聞けば、ずっと以前から見せていただくことになっていると言う。
 もしかして法的に薬剤師には確認義務が課せられていたりするのかもと思ったので、何故お見せしなければならないのですかと聞くと、飲み合わせやアレルギーの問題とかがあるので確認することになっているのですと、先程と同じ説明をし、後で薬剤師にさっきの画面を見せて下さい、というので私は良いですよと言って待合い席についた。

 飲み合わせの問題は確かにあるだろう。アレルギーの問題もあるだろう。けれど私はこの薬しか飲んでいないし、この薬は2年以上飲んでいる。だから飲み合わせもアレルギーも関係ない。
 きっとあの人には私が病的に見えて、たくさんの薬を飲んでいると思ったのだろう。

 待合い席でお薬手帳アプリのメニューを見ていると、アプリで発行するワンタイムコードを使って薬局側から薬履歴を参照出来る仕組みがあるらしいことがわかった。
 そこで薬を受け取る際にそのワンタイムコードが表示された画面を薬剤師に見せたところ、確かにそのコードを使って可能だという。その話をしていたところ、やっぱりあるじゃないという感じでさっきの受付にいた女性がやってきて、今度来たときはそれを見せてくれればいいんですと曰う。

 薬剤師に対し、これでいいんですね分かりましたと答えながら、ひねくれ者の私は意識を受付の女性に移し心のなかで、もう二度と来ませんけど、と言った。
 きっと彼女も私のような人には会いたくないと思っていただろうけども。

おわり
 

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