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チャンネル

 人がどうして噂話や陰口に夢中になるのか私には分からなかった。
 
 テレビのワイドショーや週刊誌の話題を追いかけることと、ニュースや硬派な報道番組を見ることは違うことと捉えられがちだが、実は同じことだ。ワイドショーや週刊誌が低俗で、ニュースや報道番組が高尚な訳ではない。どちらも、人が生き延びるための栄養を吸収するためのもので、そのチャンネルが違うだけだ。

 情報源という薄っぺらいものではない。チャンネルは私たちが世界を理解するための通路であり、それこそが世界の全てだ。
 ラジオの周波数を合わせると聞こえるように、世界には無数のチャンネルがあって、私たちはそれぞれがそれぞれのチャンネルを聞いている。場所によって時代によって、聞けるチャンネルや聞けないチャンネルがある。育った環境によってもチャンネルが違う。

 生まれ故郷が同じというだけで親近感を抱くのは、チャンネルの一部が共通していることで共通理解が出来ると思うからだ。見ている世界の一部が同じということは、説明不要の共通認識があることになる。分かり合えるということは、心理的な距離の近さに繋がる。
 ファッションの趣味が合う、好きな音楽のジャンルが同じ、漫画好き、映画好き、食べ歩きが趣味。こうした共通点があるだけで心理的な距離が近づけるのも同じ理屈だ。つまり生きている世界が同じような錯覚を生む。

 趣味が同じというだけで、それがどうしたと思えるのだとしたらあなたは素晴らしい。あなたには趣味よりももっと世界に迫るための本質的な独自のチャンネルがあるということだ。ただ、そんなあなたはきっと孤独だろう。孤独を好んでいるかも知れない。それはそれでいい。

 世界を理解するためのチャンネルが人それぞれ様々あって、それがどのチャンネルなのかはあまり重要ではない。大切なのは、人がチャンネルを通じてしか世界を理解出来ないということだ。
 チャンネルを通じて私たちが理解している世界はある種の虚構だ。それをこちらの記事では「お話」と称した。
 噂話は現実からの切り抜きという意味で虚構の一種だ。脳の中で噂話に反応する部位と虚構に反応する部位は恐らく一緒だろう。噂話も虚構もどちらも人間の脳に特有の働きによるものだろう。
 だから、人が噂話に夢中になるのは至極当然のこととだろう。その能力があったからこそ現在の私たちが存在していると言える。

 さて、あなたの良く見るチャンネルは何チャンネルだろうか。
 まさか死後の世界とのチャンネルをお持ちとか。
 まぁ、それはそれでいい。

おわり

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