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ドラマ『両刃の斧』

 私自身は通報した経験が無いが、電話の向こうではこう言うらしい。
「事件ですか、事故ですか。何がありましたか?」
 人が死んでいるのを発見した時に、冷静に判断して説明することなど出来るものだろうか。

 一人暮らしを始めた娘をストーカーに殺された刑事。目撃証言から容疑者の似顔絵が作られる。男はその容貌から、ラクダ男と呼ばれた。
 しかし彼の現役刑事の時代には容疑者逮捕には至らず、後輩の刑事に託されたのだが容疑者の尻尾すらつかめない日々が続く。父親は毎日街を歩き、事件の痕跡を探す日々を送っている。

 殺人時効が撤廃され、過去の未解決事件を扱う特捜班にこの事件が取り上げられる事になった。父親にとって、またその後輩刑事にとっては千載一遇のチャンスだ。これを逃したら犯人を逮捕出来る可能性は著しく下がる。後輩刑事は所轄から特別捜査班に加わる事になるのだが……。
 

 人は見た目が何とやらと言いつつも、人を見た目で判断してはいけないとも言われる。そう、見た目だけで疑わしい奴だと決めつけては駄目なのだ。特にこのドラマでは。だからといって、善良そうな人が実は悪だったというほど単純でも無い。
 視聴者から見れば、登場人物の誰もが怪しく思えるのは、見た目や言動に騙されているからだ。次々と浮かび上がる新事実に、事件は解決に向けて動き出したかに見える時がある。そんな時こそ、慎重に事実を見定めなければならない。

 主人公の一人、娘を亡くした元刑事役を演じた柴田恭兵の演技が秀逸だった。言葉と間が繋ぐ内に秘めた心情の吐露に何度も涙を誘われる。
 ラクダ男の気持ち悪さも尋常では無く、演じた黒田大輔の技量は恐ろしいほどだ。
 妻役の風吹ジュンも、後輩刑事役の井浦新も、しっかりと導いてくれる。そして、奈緒が演じる後輩刑事の娘が画面の端で情景をしっかりと支えていた。
 画面に多く登場する人物の演技力で物語がこうも引き締まると、のめり込まずにはいられない。

 振り上げた斧で後ろにいる人を傷付けるというタイトルの意味が、見終えた今じんわりと染み込んで来る。

おわり

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