⑯ 日常生活における論証の構造と新たな構成「はじめ・なか・まとめ・むすび」

市毛勝雄氏は、論理的な文章(小中学校においては通常「説明文」と呼ばれています)を「説明文=論理的文章=報告+論説」であると定義しました。そして、「報告」とは「一つの具体的な事実・状況についての様子の『記述』部分と、その『考察』との二つの部分から成り立っている文章」であり、「論説」とは「数多くの事実を客観的な証拠として、一つの問題(テーマ)について、自己の主張を述べた文章」と分析しました。(「説明文の授業を楽しく」『教育科学・国語教育』№522による)。
また、「報告」の構成は「はじめ・なか・まとめ」(起・承・束)の3構成、「論説」は「はじめ・なか・まとめ・むすび」(起・承・束・結)の4構成であるとも論じました。この各構成要素は以下のとおりとなります。

 はじめ(これを「起」と称する)
  全体の内容の予告・紹介・あらまし等を述べるところ。
 なか(「承」と称する)
  具体例を提示する部分。
 まとめ(「束」と称する。いわゆる「転」ではない。)
  具体例に共通する性質をとり出して述べる部分。
 むすび(「結」と称する)
  「まとめ」でとり出した具体例の性質が一般的な価値を有すると主張する部分。価値の一般化・普遍化である。

この市毛氏の論じた内容は、まさに⑮で述べた「序論・本論・結論」の問題を解決するものであると言えます。つまり、市毛氏の論じる「報告」とは日常生活における論証のa構造の表現(「説明文・解説文・生活文・感想文」)であり、「論説」とはb構造の表現(「意見文・主張文・提案文」)そのものであると言えるからです。
つまり、以下のように対応していくことになります。

  <はじめ>(論証する対象について述べる部分)    
  <な か> 根拠となる具体的な事実
        ↓
  <まとめ> 判断・考察(データ) *ここまでがa構造
        ↓
      ( ↓ ←←←← 判断・考察(理由づけ))
        ↓      *省略されている
  <むすび>  主 張       *ここまでがB構造

前述しましたように、市毛氏のこの考えが示された論文タイトルは「説明文の授業を楽しく」です。つまり、市毛氏は小中学校の国語科の授業を想定して論じてます。⑪において、つなぎの段階のB構造は「ピアジェの言う形式的操作期(11歳くらい)」から理解できるようになると述べました。ですから、まさに市毛氏の論じた内容はこの発達段階にふさわしいものであると言えるのです。

では、日常生活における論証の構造の最終段階(c構造)が理解できるようになるのはいつ頃なのでしょうか。
⑩では最終段階(c構造)の例として、高校3年生の『AKB論』を載せました。高校生では、この例のように自ら「理由づけ」を構築して論証することが可能となります。
⑦においては、自然科学分野の論証例として以下のような数学分野の合同証明を示しました。

 二つの三角形は二辺とその辺を挟む角が等しい(データ)
   ↓ ← 二辺と挟む角が等しい三角形は合同である(理由づけ)   
 二つの三角形は合同である(主張)

この証明は中学2年生で学習します。平成29年度版『中学校学習指導要領解説数学編』(文部科学省)に「中学校は生徒の発達の段階からみても、演繹の必要性と意味及びその課程に興味・関心をもち、論理的に考察し表現する力も高まっていく時期である」と示されています。つまり、中学校2年生くらいから「理由づけ」の存在が理解でき「理由づけ」を意識して論証できるようになってくると言えるのです。

ですから、教育的観点から言えば、中学2年生以降は市毛氏の「はじめ・なか・まとめ・むすび」という4構成に加えて、このマガジンで述べてきた日常生活における論証の構造(c構造)を教えていく必要があることになります(これを「序論・本論・結論」と対応させながら)。

まとめてみますと、市毛氏の論を踏まえると、日常生活における論証の3パターンで表現される文種をそれぞれ別々の構成として表せば以下のようになるでしょう。

 a構造(説明文・感想文等)= はじめ・なか・おわり
 b構造(意見文・提案文等)= はじめ・なか・まとめ・むすび
 c構造(評論文・論説文等)= 序論・本論・結論 

次の⑰においては、日常生活における論証の構造(a・b・cの3つの構造)と「序論・本論・結論」及び「はじめ・なか・まとめ・むすび」の関係性を動画で示しました。
具体的に「ぼくのおとうさん」という表現を基にして説明しています。このマガジンのまとめにもなりますので、ぜひ確認してください。

動画のパスワードは ronri2  です。





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