⑦ 「まとめ」と「むすび」の間にあるもの

基本的な日常生活における論証の構造(マガジン『論理的思考力・表現力をどう育成するか①(理論編:構造の理解)』の記事⑭の動画で示した「bの構造」)で表現できるようになった学生に対して、もっと専門的な分野の表現に対応する論証の構造(cの構造)を用いても表現できるような指導を展開していきました。
つまり、いよいよ論証の構造を理解させるための講義となったこととなります。

具体的な導入として、2006年にベストセラーになった『世界の日本人ジョーク集』(中央公論新社・早坂隆)にもある日本人を落ちとした有名なジョークについて考えさせました。問題は以下の通りです。

Q 次の空欄に入る言葉を考えましょう。『世界の日本人ジョーク集』(中央公論新社・2006)早坂隆より
① ある豪華客船が航海の最中に沈みだした。船長は、乗客たちに、速やかに船から脱出して海に飛び込むように指示をしなければならなかった。船長は、それぞれの外国人乗客にこう言った。
アメリカ人には、「飛び込めばあなたは英雄ですよ。」
イギリス人には、「飛び込めばあなたは紳士ですよ。」
ドイツ人には、 「飛び込むことがこの船の規則となっています。」
イタリア人には、「飛び込むと女性にもてますよ。」
フランス人には、「飛び込まないでください。」
日本人には、  「                     」
   ↑ *人々の頭の中にある前提となる日本人への考え方
 (                           )

この問題は、落ちとしての日本人への指示(こう指示すれば必ず日本人は飛び込む)を考えさせるとともに、「どうしてその指示で日本人は飛び込むのか」ということ、つまり世界の人々の頭の中にある日本人像も考えさせるものです。
この問題の意図は、「この指示は、言語化されてはいないが人々の頭の中にあるものを基準として表出されたものである」ということを理解させるためのものなのです。つまり、bの構造で言えば「まとめ」と「むすび」の間で省略されたものである「理由づけ」の存在を気づかせていくことが意図なのです。

学生はいろいろな指示を考えていましたが、最終的に「みんな飛び込んでいますよ」という指示に全員が納得していました。その後、「では世界の人々はどうしてその指示をすると日本人は飛び込むと考えているか」ということについて考えさせました。「言語化されていない」「頭の中にある基準」を考えさせたのです。
学生は、「集団主義」「ひとりでは何もできない日本人」「個人の考えなど持たない日本人」という日本人像を考えることができました。ここにおいて、「表現というものは『言語化されていない』ものも含めてのものである」ということが実感できたことになります。つまり、おぼろげながら「理由づけ」の存在に気付いてきたと言えるでしょう。

なお、この問題の後は確認として以下の2問について考えさせました。

② 日本人とロシア人の技術者が、車の気密性について話し合っていた。
日本人技術者「我が国では気密性を試すために、猫を一晩車の中に入れておきます。そして次の日、猫が窒息死していたら、気密性は十分だと判断します。」
ロシア人技術者「我が国でも気密性を試すために、猫を一晩車の中に入れておきます。そして次の日、猫が(        )なら、気密性は十分だと判断します。」
   ↑*人々の頭の中にある前提となるロシア人への考え方
 (                       )

③ フランスのとあるブランド店。その店の売り上げの一覧は以下のとおりである。
・日本への輸出        ・・・ 45パーセント
・(            )・・・ 55パーセント
   ↑*人々の頭の中にある前提となる日本人への考え方
 (                       )

みなさんは、どのように空欄を埋めましたか。つまり、言語化されていない頭の中の「理由づけ」を想像しましたか。
私たちは、このように言語化されていないもの(各自の頭の中に存在しているもの)を「理由づけ」(大前提)として物事を考え、自分の行動を決定していることになるのです。

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