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間接的安楽死と終末期の鎮静~安楽死制度を議論するための手引き10-2

論点:鎮静は安楽死制度の代替となり得るか

 さて、前回は日本緩和医療学会が発行している『がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き』の2023年度版への改訂において、どの部分が変更になったかや、その意図するところ、特に「間接的安楽死」という概念について総説的にまとめました。

 では、本稿ではこの『手引き』によって医療現場がどのように変わるか、そしてその問題点について考えていきましょう。

①「患者中心」が強調されたことで、本人の権利が守られるように

 まずひとつ目は良いこと。
 前回の記事でも書きましたが、今回の「手引き」では2018年度版で「鎮静を行うに際し、家族の同意を得ること」とされていた記述が「家族の同意を得ることが望ましい」と変更され、患者本人の意思を最優先するべきことが明文化されました。
 持続的な深い鎮静をかけると、多くの場合はそのまま家族と二度と会話ができることなくお別れ、となることが多いため、いわゆる「今生の別れ」を前にして家族がその実施を拒否するパターンが無いとは言えません。それでも「患者が望んでいることだから」と、家族の反対を押し切っても鎮静薬を投与すれば、後々にトラブルとなる可能性もあるでしょう。だからこそ、2018年度版では、「家族の同意を得ること」が鎮静の条件となっていたのでしょうが、それでは本人の人権が守られないと察したのでしょう。患者が主体となって、自らの行く末を自ら決めていく。その当り前のことが、これまで進められていなかったことの方が問題でしたから、これは純粋にGoodです。

②鎮静について「事前に情報提供を行い、同意を得ておく」べき?

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