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緩和的鎮静は安楽死の代替となり得るか~安楽死制度を議論するための手引き08-2

論点:緩和的鎮静は安楽死の代替となり得るか

 前回の記事では、緩和的鎮静の定義や最近の考え方などについてご説明しました。
 では今回は、前回の宿題となっていた「終末期と同様な苦痛があっても延命される日本」といったテーマを取り上げましょう。

※以下、自死に関連する概念の記述がございます。ご覧いただく際にはご注意の上、お読みくださるようにお願い申し上げます。

 皆さんは「VSED」という概念をご存知でしょうか。「voluntary stopping eating and drinking」の略、日本語で言えば「自発的な飲食中止」という行為です。つまり患者さんが自分で飲食を止めることで、死期を早めるための方法で、安楽死や医師による自殺幇助が何らかの理由により難しい場合の代替方法として患者自身が選択する場合があります。
 オランダやベルギーなど、安楽死制度が存在する国においても、安楽死を希望する方全員が安楽死を受けられるわけではありません。希望をしていたが適応外とされたり、審査中に死亡してしまうという例もあるということですね。つまり、安楽死の手続きの煩雑さや適応外となった場合に、VSEDによる死を選ぶ人がいるということです。
 2015年オランダの医師708人から回答があったアンケート調査によると、46%がVSEDによる死期の短縮の経験があり、患者の70%以上は80歳以上で、76%は重篤な疾患を持ち、27%はがんであり、77%は日常生活に介護が必要であった方、と報告されました。またVSEDによる死亡までの中間値は7日であり、死亡までの主な症状は痛み、倦怠感、意識障害、口渇でした。
 また、2016年に日本緩和医療学会と日本在宅医学会の専門医の計571人から回答が得られた調査では、185人(32%)がVSEDを実際に試みた終末期患者を診たことがあると報告しています。

 世界的には、VSEDを患者さんが選択した場合に、医師が患者さんに治療(栄養療法など)を強制する方法はなく、よってVSEDを決定した患者の意思を尊重するべきであるという論調です。患者の権利法におけるポジティブ・ネガティブリストにおいても、安楽死は患者の権利法の埒外なので、医師に拒否権がある、という話を以前にしましたが、一方でVSEDはネガティブリストの行使に値するため、患者さんが飲食を止めると判断しても、それを治療する法的根拠が無いということです。

 しかし、VSEDは決して「安らかで楽な死」とはいえません。

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