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50〜70年代に建てられたハノイの集合住宅

 ハノイの街にはフランス植民地時代に建てられた建物が目立つこともあり、建築といえばフランス植民地時代の建物にばかり目がいきがちだ。長くこの街に暮らしていると、そうした壮麗なコロニアル建築より1950年代から70年代にかけて盛んに建設された集合住宅の方に愛着がある。

 これらは4〜5階建ての低層集合住宅で、現在一階は店舗に、上層階は狭い住居の面積を広げようと違法な増改築がなされ、歪な形に変化している。それはあたかも生命を持った細胞が増殖するかのような形態をなし、ハノイの街を楽しくしている。

 この集合住宅の多くはソ連や北朝鮮の支援を受けて、プレハブ式に建設された。集合住宅に隣接して商業施設、幼稚園、学校、子どもの遊び場を備えている。ソ連の「近隣住区」計画の設計概念に基づくものだそうだ。

 こうした住居は公務員や労働者の住居となったが、社会主義政策により家賃は低く抑えられたが、修繕や塗り替えはされず、老朽化が著しい。

 集合住宅でも外国人が住むようにメンテナンスが行き届いたエリアに立つ建物は塗り替えられ、元の集合住宅の形状を保っている。それと増改築が繰り返された建物とを見比べると後者は新陳代謝(メタボリズム)を繰り返した生物のように見えてくる。

 老朽化を理由に古い集合住宅は建て替えが計画されているが、それらが近代的でのっぺらぼうな高層ビルに置き換わるのはなんだか残念な気がしないでもない。

日本ベトナム友好協会東京都連ニュース「ハノイからの手紙」2021年3月号掲載

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