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つい人の顔色をうかがってしまうなら、読んでほしい本(注意点も)

 この本、レビューの評価がまっぷたつに割れていたんです。高評価のレビューと、酷評ともいえるくらいの低評価レビューがならんでいて、逆におもしろそうだな、と思って読んでみました。

 一読してみて、思ったのは。
 
 分析はめっちゃ高評価。
 だけど対処法が危ない。

 でした。


「怒られたくない!」

 筆者の佐々木正悟さんは、あらゆる仕事術を駆使して「怒られないように」がんばり続けてきました。あまりの奮闘ぶりに、涙がこみあげてくるほどです。

 それでも、人間なんだからミスくらいします。ミスしない人間なんていませんから、「怒られること」をゼロにすることはできません。

 それでも怒られるのは怖い。怒られたくない。人の顔色をうかがい、ミスしないように警戒し続けた結果、こんな問題が起きたそうです。

 警戒しているだけに、むしろ感覚は鋭敏になります。最初は叱責を恐れていただけだったかもしれませんが、徐々に「叱責の兆し」を恐れるようになります。少しでも妻の機嫌が悪そうに見えたり、編集さんからのメールの文面が「冷たそう」だったりするたびに、アタマの中のサイレンが鳴り響くようになるのです。
 これは、「警戒レベルが上がった」せいでわたしに起きたことでした。

 ああ、分かる。
 思わずため息をついてしまいました。



どうして怒られることがこんなに怖いのか。


 その理由は、脳の「扁桃体(へんとうたい)」が活性化するから
 

 「扁桃体(へんとうたい)」は、恐怖を感じると活性化し、ストレスホルモンを分泌します。そうすることで、「戦う」「逃げる」「死んだふり」といった対処ができ、命を守ることができます

 オオカミがあらわれた!(恐怖)
→ 戦う! Fight !
→ 逃げる! Flight!
→ 死んだふり! Freeze!

 でも、現代社会では、扁桃体の働きがマイナスになることも。

 上司から「やる気あるのか!」と怒られた!
→ 戦う! 上司をぶん殴る!
→ 逃げる! こんな会社やめてやる!
→ フリーズ! 死んだふり! 

 どれを選んでも、おかしな行動になってしまいます。

 つまり、

「怖くなると、人間の行動はおかしくなる」
(中略)
「怖い思いをすれば、3Fの選択を強烈に促される」
のです。しかし、現実社会で3Fは選択できません。選択できたとしても、異常行動です。でも、選択しないままでも困り果てるでしょう。だから、行動が不適切になってしまうのです。


 学校や会社や家庭で、バクリと食べられて命を落とすことはありません。
 なのに、猛獣だらけのジャングルにいるかのようなストレスを感じ、少しでも怒られそうになると「戦う!」「逃げる!」「死んだふり!」をしてしまう。それはなかなかしんどいことです。

 

解決のカギは「甘えること」


 そもそも、なぜ会社が、猛獣だらけのジャングルのように感じられるのか。それは「怒られると、居場所がなくなる」と感じてしまうからです。

こうしてみると、徐々に明らかになるとおり、本当に怖いのは「怒られること」ではにあのです。HSP気質の人が本当に気にしていることは、

「所属しているはずのコミュニティにおいて、自分が守られていると感じられない」

という不安なのです。
そう考えると、「ピリピリした職場の雰囲気」や、「ドアをバタンと閉める大きな音」や、「隣の同僚が怒られていること」までも「不快で不安にさせられる」理由が見えてくるでしょう。

 「仕事ができないと、居場所がなくなる」そんなプレッシャーが、扁桃体を刺激してしまうのです。だからこそ、まわりに甘えることで、「ここは私の居場所なんだ」と認識することが大切なんです。

 ここまでは、高評価も納得な内容でした。
 問題はここからです。


「自分が甘えるために、まず誰かの甘えをかなえてあげる」対処法が危ないわけ

 
 ただ、いきなり誰かに甘えてみる、というのは、いささか難しいことです。だから、

 まずは誰かを甘えさせてあげましょう。
 甘えさせてあげれば、相手から好意が返ってきます。
 そして、自分も甘えることができるようになります

 を原則とした対処法が書かれています。

 まちがっていません。人間関係はギブ&テイクでなりたっています。甘えをギブすれば、自分にも返ってくるでしょう。相手が普通の人なら

 世の中には、いろんな人がいます。
 特に、愛着性の障害を持っている人に対しては、この対処法は逆効果になることがあります


 お世話になっている精神科の先生によると、

「愛着性の障害とは、愛情の過食症みたいな状態」

 愛着性の障害をかかえてしまうと、どんなに愛情をもらっても「足りない、もっと欲しい」と求め続けてしまいます。過剰な愛情への欲求を満たし続けられる人なんていません。いずれ関係自体が破綻してしまいます。

 過食症の対処=食べ物を与える、ではないように、愛着性の障害を持つ人への対処=愛情を与える、ではないのです

「フレンドリーに接しすぎると症状が悪化するから、注意しないと」

 精神科医でも、愛着性の障害を持つ人の治療では、適切な距離を保つことが必要とされています。そのうえで「愛情を求め続けると、あなたが傷つくことになるんだよ。愛情をもらうの、あきらめてもいいんじゃない?」というようなメッセージを伝えるんだそうです。


 世の中にはいろんな人がいる。
 甘えさせてあげたからといって、
 好意が返ってくるとは限らない。

 これが「誰かを甘えさせてあげる対処法は危ない」と感じた理由です。

私の考える対処法


 前半を読んでいただければわかるように、この本はかなりの良書です。ただ、愛着性の障害を持っている人が相手の場合は、たぶん通用しません。
 この本だけでなく、人間関係改善のアドバイスのほとんどは、「相手は普通の人である」と想定しています。相手が愛着性の障害を持つ人なら「アドバイスどおりにしたら、よけいに状況が悪化した」なんてこともあり得ます。


 この本を読んで、私が考えた対処法は、

 優しそうな人を10人選んで
 その10人に、30秒だけ、甘えてみよう

 です。


 いつもビクビクしている人は、甘え下手です。甘えることで「ここは私の居場所なんだ」と感じることが必要。それはまちがいありません。

 ただ、いきなり甘えることには抵抗がありますし、誰か一人に甘えようとすると、適切な甘えかたが分からず、ドーンと甘えすぎて相手の負担になってしまうことも。私の実体験ですが……。

 だから、「10人に、30秒だけ、甘えてみよう」なんです。この10人は、家族でも、会社の同僚でも、友達でも、近所のおばちゃんでも、どんな人でもかまいません。

 10人に甘えるのなら、一人ひとりにかける甘え負担は軽くできます。軽く愚痴るとか、ほんの少しだけ手伝ってもらうとか。30秒程度の甘えなら、相手も快く引き受けてくれるはずです。

 あと、人数を増せば、一人に甘えを拒否されたとしても、ショックが軽減されるという面もあるかな、と。


 ちりも積もれば山となる。軽い甘えをたくさん集めることが、自分のストレス軽減につながり、やがては人の顔色なんかうかがわなくていい自分になれるのではないかと思います。

 

 本当にためになる本でした。よかったらご一読ください。

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