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2014年 『蓮池のほとりで』〜プラムビレッジ(フランス)、サマー・リトリート2014体験記 〜

2014.9.16   参加者の体験レポート(文:微笑みの風サンガ☆東京 金澤悦子)

プラムビレッジには、大きな蓮池があります。 私は毎朝美しい蓮の花に見惚れながら、朝食を頂きました。 時折、蛙が鳴き声と共に顔を覗かせたり、小鳥がえさをついばんだり、蓮の花が風になびいたり・・・、いつまで見ていても飽きませんでした。 蓮池には、どこか私達を惹きつける何かがあるらしく、池に向かって静かに座っている人の姿をよく見かけたものでした。 私は、この蓮池は大きなお墓みたいだなぁと思いました。 大切な人の死や、自らの絶望や怒り、不安などとても一人では受け止めきれないために傷ついた魂を、そっと弔っているのではないかと思いました。 魂をゆっくりと泥の中に鎮めて、皆で祈りを捧げる、そんな世界中の人のための共同墓地だと思いました。 私は今は亡き父母の写真をとり出し、蓮池のほとりで一緒に座りました・・・。

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私は21歳の時に、突然母を病気で亡くしました。 その時のあまりのショックに、気づいたら「怨み」が、心の中に巣くっていました。夕焼けや、新緑、朝露などの輝く自然の中に、そして大切な人の笑顔やぬくもりの中にさえも、あの恐ろしい「暗黒の死」が含まれているということが、信じられず納得出来ませんでした。 私の心の中で、死は敵に回り、生と死が激しく対立して、常に緊張を強いられるようになりました。 それ以来、私は人とも対立しやすくなり、人の輪に溶け込むことが出来なくなっていったと思います。 「怨み」を抱きながら生きていくことは、大変苦しかったからです。
プラムビレッジのサマー・リトリートでは、ほぼ毎日タイの法話を聞いたり、一緒に歩く瞑想をすることが出来ます。 既にプラムビレッジ参加経験のある日本のサンガメンバーが色々とアドバイスをしてくれたおかげで、何百人もの参加者がいるにもかかわらず、私は常にタイの間近に居ることが出来ました。 間近で感じるタイの息づかいは、怖い程静寂でした。 あの絶望的なベトナム戦争をくぐり抜けてこられたタイは、想像を絶する程の「怨み」を抱く機会があったはずです。 けれどもそれらはあとかたもなく、変容し、輝く光に昇華されているようでした。 大きな困難にあっても、どのように生きていくべきかを、自らの存在の在り方で、示してくださっているように思いました。

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タイの法話の内容は、いつも簡潔です。 例えばQ&Aのコーナーで、こんな質問をされた方がおられました。 「私達が死んだら、魂は何処へ行くのでしょうか。」 タイは、次のようにお答えになりました。 「一枚の紙に、表と裏があって一体であるように、私達の身体と魂は一体です。 深く見れば、いのちは決して二つに分離できません。同じように、深く見れば、雲と雨を二つに分離することもできません。雲に覆われた空から雨が降ってきたとしても、決して雲がなくなって死ぬわけではありません。雲は、雨の中に生きています。いのちはいつでも、姿形を変容させながら、継続していきます。 条件が整えば姿を現すし、条件が整わなければ、姿を隠す。ただそれだけ。ですから、生まれることも、死ぬこともありません。深く見れば、ただ変容があるだけです。いのちは、絶対に死ぬことが不可能です」

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これは、私が思い描いていた死生観とは全く違っていました。 死に対する強い嫌悪感に捕らわれすぎるあまり、死を避けて、「深く見る」ことなどしていなかった私。そして今、少しでも深く見ようとして思い直してみると、長い間、自分が一体何を怨んでいたのか、よく思い出せなくなっている自分に気づきました。
そして幸運なことに、あるサンガメンバーのひとりが、私にタイの最も古い弟子であるシスタ−チャンコンと、個別面談をセッティングしてくれて、さらに英語が苦手な私のために、また別のメンバーが、通訳を引き受けてくれることになりました。私は、シスタ−チャンコンに「死を受け入れられず、苦しい」と打ち明けました。シスタ−のお返事は、タイの法話の内容と全く同じで、さらに「母親からもらったおまえの中にある種は強い。その種を芽吹かせて生きろ!」と力強くおっしゃいました。私は、その言葉に心の真ん中を射抜かれ、涙が止まらなくなりました。シスタ−チャンコンの部屋に入ってわずか10分後の出来事でした。
お年を召されているにもかかわらず、タイやシスタ−チャンコンの力強く、厳しく、熱い眼差しを見て、困難と真っ直ぐに向き合う勇気をいただきました。

最後に、今回一緒にサマー・リトリート第一週目に参加してくださった、日本サンガのメンバー9名の皆さんに感謝いたします。 通訳やアドバイスをはじめ、色々と気にかけてくださってとても心強かったです。 手を繋いでプラム畑での歩く瞑想、草原でのピクニックランチ、鐘突き堂でのシスタ−達とのお茶、ブッダホ−ルでの座る瞑想とダ−マシェアリング・・・、どれも日本サンガの絆を感じさせてくれる貴重なひとときでした。 サンガの絆のエネルギーが、いつでも私を包み込み、安心感を与えてくれました。山肌から湧き出る水のように、日本のサンガがいま、姿形を現し始めていることを感じました。

条件が整えば、姿を現すし、整わなければ、姿を隠す….

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これからのサンガ活動においても、どうぞよろしくお願いします。
皆さま、本当にありがとうございました。

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ティク・ナット・ハン「マインドフルネスの教え」
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