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心拍数は上がるのか

マラソンが終わって、すっかり身体は元通りになった。着用していたウェアやシューズはしまわれ、走るたびに充電してきた、長男から譲り受けたワイヤレスイヤホンも、机の上に置かれたままだ。

しかし、今回走るために用意したモノで継続して使っているモノがある。スマートウォッチだ。
私の敬愛する先生(読書と研究が大好きな職場の同僚、いや、上司。既婚、単身赴任中の50代男性。ここではこの呼び方)に、
時計、買い換えようかと思って……セール中みたいなので、A社の〇〇ウォッチって使い勝手、いいですか?
と、2人で残業、のときに相談した。

次の日の朝、職場の机に〇〇ウォッチの選び方について、資料が置いてあった。もちろん、先生の自作だ。
私は、別居中で新車を買ったばかり、3人の子どもの進学を控えた身であるので、一番安価なものを購入しようと考えていたのだが、どうもその資料によると、それはおすすめできないらしい。
なぜなら、私が今回の購入にあたって、最も欲しいと思っていたランニングに関わる機能がついていないからだ。せっかく走ってるんですから、こうした機能がちゃんと付いている、価格的に真ん中くらいのランクのものが、ちょうどいいんじゃないですか、と手書きでアドバイスがあった。

すでに先生も勤務されていたので、資料のお礼と、やっぱり安いのではダメなんだ!と、残念な気持ちを伝えた。あくまでも同僚らしい態度で。

さて、夫との別居が始まって以来、私の相談相手は息子たちである。それぞれに欲しい回答をくれそうな相手を選んで相談する。
日常的で軽微な二者択一で迷っているときは、論理的かつ同じ価値基準で話せる次男、
私がげんなりしていて、とにかく甘い言葉とスキンシップが欲しい時は三男、
そして、新車の購入など、お金や法律に関わることは、長男である。

長男に、〇〇ウォッチ買おうと思ってるんだけど……
と相談すると、
高くない!?ぼくが持ってる△△のスマートウォッチで充分だって!だってお母さんが、これを選んだんだから!
と、反対を受けた。

彼の持つスマートウォッチは、一昨年のクリスマスプレゼントにした……つまり、あまりその分野に詳しくない私が、それなりに吟味して選んだものだ。たしかに、小学6年の長男にあわせて、値段もそこそこ、これから陸上部に入るだろうことが予測されたので、走っているときに使える機能を備えたものを選んだはずだ。

先生をとるか、長男をとるか……
いやいや、ブランドをとるか、金額をとるか、である。
迷ってる間にA社のセール期間が終わり、私の中で結論が出た。
安いスマートウォッチにしよう、背に腹はかえられぬ、お金は大事だ。

相談した2人に黙ったまま、通販サイトで購入のボタンを押した。ほどなく、小さな箱で送られてきたスマートウォッチの最初の設定はすべて長男がしてくれた。

長男が、設定のために私のスマートフォンを触っている、そんな時に限って先生からLINEがきて、
お母さん、⬜︎⬜︎さん(先生)からLINE来てる!やめてよ〜!こんなのだから、お父さんが怒って出て行っちゃったんじゃない!!
と、ニヤニヤ笑いながらスマートフォンを私に渡すこともあった。

三兄弟にとって、先生はよく知られた人物である。直接出会ったこともあるし、私を通して音楽や文化的な良いものを提供してもらってることも理解している。内心複雑だと思うが、職場が同じなのだから、連絡が来るのは仕方がないし、父親の職場は男性ばかりだったから、母の交友関係について理解できなかったことも、わかっている(長男は「男子だけの部活でいる友達と、男女一緒に活動してる陸上部の僕だと、やっぱり感覚が違うみたい」と言っていた)。

一方、その頃、先生とはやんわりケンカ中だったので、おすすめされていた〇〇ウォッチじゃなく、私が購入したのが安価なスマートウォッチだ、という認識を先生が得たのは、しばらく経ってからだった。

スマートウォッチにしてから、ランニングの距離や時間も把握できるし、健康に関係する様々な数値が見えるようになった。
特に睡眠データは、自分の生活を見直すきっかけにもなった。

そしてこの時計をつけ始めることで、別居中の夫と、いわゆるおそろいにしていたモノが、いよいよ結婚指輪のみ、となった。

スマートウォッチにして、試してみたかったことがある。それは「ドキドキしてる瞬間」は、本当に心拍数が上がっているのか、ということである。
職場の片隅で、長いこと(長いかどうかは、人によるが)キスしている間は、最高87。
私の車の中で、キスよりさらに先へ進んだ瞬間で99だった。これを高いとみるかどうか(最後まで到達すれば、もっと上がるのか?)。

私自身は高揚しているし、充分に呼吸も上がっているように感じるのだが、それよりも上がっているのは、長男を塾に間に合わせるためにバタバタ車に乗り込んでいた時間だった。
ましてや、ランニング中なんて、常に150を越えている。
なんだ、そんなものか。
いやでも、あんまり高いと身体に悪い。

心にも、身体にも優しい付き合い方を心がけます。


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