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過去のレコ評(2018-5)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Boarding House Reach」Jack White
Third Man Records
SICP-31143

前作はレッドツェッペリンmeetsビースティーボーイズな仕上がりだったが、今回は一味違う。リード曲 Connected By Love
のリフは、周期的にうねるシンセをお得意のステレオ処理したもの。歌メロはどことなくクイーンを彷彿とさせ、サビではゴスペル的なコーラスが加わる。間奏ではレスリーの効いたオルガンとアルペジエイターのかかったギターが掛け合う。ひとつひとつの要素を分解してみれば奇をてらったものはないのに、それらが合わさった瞬間に独特の世界が立ち上がる。一方、7曲目Over
and Over and Over
ではデジタルな歪みのギターリフが耳を引きつけ、コーラスの積みがコードから逸脱し随所でテープストップのような処理が用いられる。破茶滅茶なのに初期レニークラビッツのようなロックンロール感。これらのアンビバレンツさと、それが支持されるところににアメリカの底力を感じる。

「デザイン あ2」コーネリアス
WANER MUSIC
WPCL-12842

いつもテレビで聴いている音たちを、こうやってちゃんとしたモニタースピーカーで聴いてみるのはいいことだ。サンプリングの丁寧さ、控えめながら主張のある空間処理に気づくことができる。この作品の特徴としては、いつものコーネリアス作品よりも楽譜にしやすい音であること。ただし全体的にリズム楽器が少なく、音の繰り返しが少ないので、拍子を感じる要素が少ない。つまり、変拍子とも捉えられる楽曲が多いことが挙げられる。さらに、音の隙間があること及び左右の広がりが多いことは、番組のBGMとしての機能的役割。もちろんこういう分析に意味がないことは百も承知だ。音楽として十分楽しいのだから。しかしやってみると楽しいものであることも新たな発見のひとつだ。

「Sex & Food」Unknown Mortal Orchestra
Jagjaguwar / Hostess
HSE-6702

廃棄物処理場に捨てられたラジカセのスピーカーにたかるハエ。それを食べているカエルの横には札束。これがアルバムのリード曲American
Guilt (=アメリカの罪)のMV。中域に偏った歪んだ音のみで構成された音楽が4分間ようやく終わると、静かなオルガンとボーカルの息遣い。ハエがクローズアップになり、ついついハエの内面に興味をそそられる。そう、忘れがちであるが、音楽にはこんな力がある。もう一度聴いてみよう。ギターリフは、もはやハエの羽音にしか聴こえない。単音主体で5度がフラットファイブになるギターはランディローズを彷彿とさせるが、音の処理は決して懐古主義ではない。全体的に前作よりも重めなトーンなのは、時代のせいだろうか。炭鉱のカナリアは必要とされている。

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