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植物の根

植物の根というものについて、近頃よく考える。というのも、先日大掃除をしたからだ。それはちょっとした「開墾」と言えるくらい大変な作業だった。 我が家の小さな花壇には、以前の住人が植えたアイビーが生い茂っていた。蔦はフェンスを覆って、よい目隠しとしての役割を果たしていた。しかし、植えてから年月が経ち、いささか育ち過ぎてしまったのだ。もともと斑入りのエレガントな見た目だったのが、日当たりが良すぎるせいで鬱蒼とした濃い緑色の葉っぱになり、茎はごつごつとした木の幹のようになってしまっ

    • 連想3

      この夏は向日葵を植えた。 20粒余りのロシア産の種を買い求め、等間隔に土に埋めると、一週間もすれば一斉に発芽する。しかしここからが、彼らの個性が発揮されるところ。面白いほどに太く真っ直ぐ育つ芽もあれば、ひょろひょろと曲がる芽もある。種の個体差、プラス植えられた場所の環境。それによって彼らの運命は決まる。運命を受け入れて彼らはベストを尽くす。植物は動物と同じくらいアクティブにトライアンドエラーを繰り返している。 10輪ほどは、大輪の花をつけた。否が応にも道行く人の目をひく彼

      • 連想2

        駐車場を箒で掃く。箒の毛先の密度が薄い部分が、砂の筋になって残る。もう一度掃くと筋は無くなる。 頭に浮かぶのは、歯を磨く時に口の中で起こっていること。同じことが歯ブラシでも起こっているはず。何度も歯ブラシを動かすと磨き残しは無くなる。しかし、駐車場よりも自由が効かない口の中では、いつもブラシが当たらない場所があるはず。そんな時は歯ブラシを変えてみるといいのだろう。もしくは、利き手とは反対の手で磨くのもいいかもしれない。 いつも同じ道具を使っていると、いつも同じ結果を得るこ

        • 連想

          万葉集は全部で20巻あるが、16巻目が面白いという話を聞いた。 ナンセンスやゲテモノなど問題作満載で充実した内容なのだと。 …さもありなん。 面白いから歌集に入れておきたいけど、これは第一巻目には無理だな。 前半の巻ってのもなあ。 もちろん締めの巻に入れるのも違うし。 16巻目くらいだったらいいかもな。 というのが、想像できる選者のモノローグ。 アルバムが10曲入りだとしたら、7曲目に隠れた名曲があるのが良いアルバム。 逆に7曲目が駄作ならアルバム全体としてもクオリティは

          過去のレコ評(2020-2)

          (2020年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「CEREMONY」King Gnu 東京芸術大学出身という匂いが薄れてきたことを、今は褒め言葉として使いたい。ライブ会場が大きくなり、遠くまでエモーションを届けるためには、コードもリズムもシンプルな音楽が必要だ。そして音色は歪んだ倍音の多いものが必要。何より歌のエモーショナルさが直球で届く。これは、クラシック音楽の歴史においてもワーグナーなどが辿ってきた道程と重なる部分がある。さて、今回のアルバムのハイライトとなる

          過去のレコ評(2020-2)

          過去のレコ評(2020-1)

          (2020年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「to the MOON e.p.」Yogee New Waves 一聴して、こういう音のバンドだったっけ?と不思議に思い、過去の音も聴いてみた。明らかにこれまでと違う。音の画面が大きくなっている。高い周波数の成分も増えている。以前はもっと中域に寄っていたのだが、明らかに今の時代の「良い」音になっていて、それでも彼ら特有のノスタルジックさをキープしている。画面が大きい分、ギターやドラムスを左右に広げて、それぞれの余韻

          過去のレコ評(2020-1)

          過去のレコ評(2019-6)

          (2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「2ND GALAXY」Nulbarich 確かに新境地だ。新しいステージに踏み出したという手応えを感じる。昨今のネオソウル・ギターというムーブメントが、ようやく彼らに追いついた感じもある。1トラック目のイントロが唐突に終わり、キャッチーな2曲目へ。ツーコードでこんなに気持ちよくなれるんだという見本である。毎回ミックスの良さに驚かされるが、今回も冴えている。歪みっぽいハイハットとギターという、ある意味汚い音を入れるこ

          過去のレコ評(2019-6)

          新しいもの

          新しいものが好きだ。新しい技術によって可能になる新しいことにはワクワクする。 音楽も、リリースされたばかりの新譜をチェックするのが好きだ。サブスクでCDが売れなくなったのは残念だが、それ以上に恩恵を受けているとも思う。 恩恵といえば、DeepL という新しい翻訳ツール の精度が高くて驚いた。文書のチェックや作詞など色んな場面で使ってみたが、語学習得の考え方がまるっきり変わるだろうという気がした。 OpenAI の ChatGPT も試してみた。自分の名前で質問すると面白いら

          新しいもの

          過去のレコ評(2019-5)

          (2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「Our Secret Spot」the HIATUS 1曲目、JUSTICE「Water of Nazareth」を思わせるような暴力的な歪みがトラックを支配する。エレキギターをドライブさせフェイザーをかけたもののようだが、その定位が快く耳を刺激すると同時にテンションノートとして機能していて気持ちいい。Bメロは鍵盤のみになるが、1番ではオルガンなのに対し2番ではピアノになっているのがその後の伏線になっている。2曲目

          過去のレコ評(2019-5)

          過去のレコ評(2019-4)

          (2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「NO SLEEP TILL TOKYO」Miyavi 世界市場を主眼に作られたアルバムだ。奇を衒わない楽曲構築。世界の中での”TOKYO”というエキゾティズム。アクロバティックなギターテクニックの披露。これら3つは、簡単に言えば「わかりやすさ」だ。世界的なポップスの潮流に耳覚えがあり、かつ初めて彼を知る人が、すんなりと興味を持ち楽しめる音楽。それを親切な形で提示している。素直な楽曲構築が一番表れているのはコード進行

          過去のレコ評(2019-4)

          過去のレコ評(2019-3)

          (2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「STORY」never young beach のっけからスティールパンで緩い空気を醸し出すニューアルバム。はっぴいえんどの後継者とも言われる彼らの曲タイトルは「うつらない」「いつも雨」など、丸いひらがなが多く「春」という単語が2つも使われ、はっぴいえんどを彷彿とさせる。歌詞には「風」という言葉も散見され、確かに松本隆っぽい。音もヨナ抜きを効果的に使っているのが共通点だ。しかしなぜだろう、それは表面上の質感にとどま

          過去のレコ評(2019-3)

          過去のレコ評(2019-2)

          (2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「瞬間的シックスセンス」あいみょん 圧倒的な支持率の高さ。その理由が知りたいと以前から思っていた。1曲目のコードはA♭/E♭/B♭/Fm/Cmで構成されている。お互いがE♭スケールの中で、5度離れた関係にある。このシンプルさは最近の世界的傾向。そこにGmではなく、スケールアウトしたGが入ることで一気に日本的な湿度が加わる。2曲目はベースが下がっていく、J-POP的なクリシェ進行の山盛り。3,4曲目は循環進行をリフのよ

          過去のレコ評(2019-2)

          過去のレコ評(2019-1)

          (2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)」トム・ヨーク 重苦しくも美しいトムヨークの新作アルバムは、ホラー映画のサウンドトラック。同じレディオヘッドの中では、ギタリストのジョニーグリーンウッドが着々と映画音楽作家としてのキャリアを積んでいる。ジョニーはポールトーマスアンダーソンのような大作系の映画監督と組むことが多く、弦楽器を主体とする音楽を多用する。それに対し、ボ

          過去のレコ評(2019-1)

          過去のレコ評(2018-11)

          (2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「Sleepless in Brooklyn」[Alexandros] 今更「バンドという形態の定義とは?」などと持ち出すのもナンセンスだが、もはや「数人で生演奏すること」などというのは狭義過ぎる。簡単に言えば「チーム」であること。では、チームであるというのはどういうことか。それは、長い時間軸で互いを必要とすること。そう感じたのは4曲目を聴いたから。REXファイルを加工したようなマシンパーカッションのイントロ。そこに

          過去のレコ評(2018-11)

          過去のレコ評(2018-10)

          (2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「HOME」ジョン・バトラー・トリオ P-VINE RECORDS PCD-18843 ジョン・バトラーといえば、乾いたアコースティックギターを巧みに鳴らした、巻き毛・長髪のイメージ。それはヒッピーやサーファーのように、親しい友人たちと楽しむ音楽。しかし、今回は少し違う。長いリバーブが多い。それは広い場所を意味する。そしてアンプを通したギターが多い。つまりそれは、コンサートを意識したもの。どこで誰がどういうふうに楽し

          過去のレコ評(2018-10)

          過去のレコ評(2018-9)

          (2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「Our Latest Number」toe Machupicchu Industrias XQIF-91001 16ビートがスリリングに聴こえるのは当たり前として、これだけ心地よく響かせられるバンドも珍しい。それは単に、リズムの縦のタイミングが正確だからというだけではない。それぞれの単音がコード構成音におけるテンションノートになる瞬間の柔らかさ。そして、各楽器の周波数及び定位が周到に振り分けられていることで、頭の中

          過去のレコ評(2018-9)