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過去のレコ評(2019-6)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「2ND GALAXY」Nulbarich

確かに新境地だ。新しいステージに踏み出したという手応えを感じる。昨今のネオソウル・ギターというムーブメントが、ようやく彼らに追いついた感じもある。1トラック目のイントロが唐突に終わり、キャッチーな2曲目へ。ツーコードでこんなに気持ちよくなれるんだという見本である。毎回ミックスの良さに驚かされるが、今回も冴えている。歪みっぽいハイハットとギターという、ある意味汚い音を入れることで、全体がこじんまりと纏まることなく広がり、気持ち良さと高揚感が得られる。3曲目は、音数の少なさを活かした空間づくり。コード譜にすれば「C→Am→F→G」の繰り返しでしかないが、随所にポリリズムを入れるなどもちろん音楽的な遊びは忘れていない。続く4曲目もアニメ「キャロル&チューズデイ」に提供したバージョンよりもやんちゃになっていて楽しい。とにかくそれぞれの曲がシンプリファイされ、和声よりも音響で楽しませるという点が今の時代感に沿っている。これなら街の喧騒の中でヘッドホンで聴いても、車を運転していてもバッチリだ。

「GiRL」オカモトコウキ

瑞々しいアルバムだ。プロフェッショナルとアマチュアリズムがせめぎ合っている。うまい演奏というのは、それだけで聴くに値する。しかし歌というものに関しては、うまければ良いというわけではない。聴くべき歌かそうでないか、それを分けるのは「衝動」だろう。あるいは「アティチュード」と言い換えても良いかもしれない。2曲目を聴いた時に思い出したのはソロになったばかりの小沢健二だ。Dという明るいキーで、Cというコードに動いた時にメロディがファという捻れたようなブルージーな音遣いになるところまで似通っている。しかし彼らを結びつけるのは、そういうテクニカルなところではなく、アティチュードなのだろう。自分の音楽を聴いてもらいたいという態度。歌声でもメロディでもなく、ましてや歌詞でもない。自分の音楽としか言いようのないカタマリを形にしたいという衝動。個人的には5曲目が気になる。クイーンのような多重録音なのだが、それを一人でやってしまうところにアンディ・スターマー(ex.ジェリーフィッシュ)に通ずる才能を感じた。

「UNSER」UVERworld

この10年で、世の中の商業スタジオの使い方が変わった。というより、個人のツールが変わった結果、音楽の作られ方が変わったというほうが分かりやすいかもしれない。一昔前は、プロユースのスタジオに入ることは、プリプロダクションを終えた楽器や歌を「清書」することだった。スタジオに入る前にデモを作り練習を繰り返し、気合いを入れた演奏をより良い音質で録音する。そういう、ある意味神聖な場所として商業スタジオが存在した。しかし昨今、録音するツールが高品質・低価格化し、個人が所有出来るツールが格段に良くなった。かつパソコンが音楽を作る「楽器」の役割を果たすようになった。例えばボコーダーありきの曲を作る場合、自宅で録音した声を加工する。そうすると、それが最終的な素材となる。楽器の音にディレイを付けたりするのも、最早スタジオでやることではなく個人のパソコンで完結することが多い。彼らの新作は、きっとそんな最先端の作り方をしている。やりたい音楽、言いたい歌詞を作れる素晴らしさに溢れている。1,9曲目などを聴いてそう思った。

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